梅雨の晴れ間に乾いた空気を感じられるのは幸せなことだと思う。
去年気づいた。
梅雨の晴れ間は蒸し暑いものだと、それまでの梅雨体験で刷り込まれていたから、去年味わった梅雨時の乾いた空気はことのほか快適だった。
今日はそんな空気を感じることができて幸せだ。
夜7時帰宅。
急に食べたくなったたこ焼きを食べた。
8時半からジョギング。
連雀通りを恋ヶ窪まで走り、府中街道を南下して武蔵国分寺跡からお鷹の道に入る。
先週は夜の11時近くに走ったため、滅茶苦茶怖い思いをした。
だが今日は夜の9時台だ。
少しはマシだろうと思った。
ところが、全然マシじゃなかった。
武蔵国分寺跡からお鷹の道に入る場合、いきなり墓場がある。
卒塔婆が風に吹かれてガタガタ音を立てる。
新田義貞が鎌倉攻略の際、府中、小金井、国分寺あたりで大いくさをしたらしいが、その折りに殺されて野辺に捨て置かれた無辜の民や兵士の霊が、武蔵国分寺跡に集結しているように感じる。
「すんません。失礼します」
とりあえず謙虚になるのが第一だと思い、ペコペコ頭を下げながらお鷹の道に入る。
周囲は真っ暗だ。
道の脇の流れに目を凝らすが、蛍は見つからない。
(本当にいるのだろうか?)
流れに目をやると、水かさが少なくなっており、ほとんど枯れそうな状態だった。
窓から人家の明かりがさしているところに出た。
人気を感じられるだけで十分ありがたかったが、そこを過ぎればまた暗闇が続く。
思わず足を止めてしまった。
進むも地獄戻るも地獄。
その時、人家の明かりから、水を流すような音が聞こえた。
どうやら、風呂場らしかった。
そして、若い女が、なにやらハミングする声が聞こえた。
(まずい、このままここにいたら、のぞきだと思われてしまう)
すると、女は歌い始めた。
輝くしーろいー恋のはーじまーりはー
とてもーはーるかー遠く昔のことー
よりによって、トモちゃんかよ。
歌は続いた。
にゃにゃにゃにゃにゃーにゃにゃー
どんなときーでもー
英語部分は「にゃにゃにゃ」かよ。
力が抜けてしまった。
そして、心の底から思った。
今、オレ、風呂場、覗きたい。
もちろん覗けるわけもなく、ジョギングを続けたのだが、道に入った時に感じていた恐怖は霧散していた。
うちに帰ってからもなぜか、とても幸せな気分だった。