隣のお姉さんとお医者さんごっこ

 4時に劇場入りなので、久しぶりにゆっくり眠り、休息をとった。

 劇場入りしてから中山君とマラソンをする。
 「もしも遅れたら、置いてってくれていいですから」
 そういわれたものの、道に迷われても困るので、スローペースでマラソン。
 南池袋から護国寺に出て、そこから不忍通りの坂を上り目白通りへ。
 後は明治通りを池袋に向かうだけ。
 いい汗をかいた。

 やはりマラソンをすると体の調子がいい。
 夕飯を買いにコンビニに走るとき、体が月面にいるみたいに軽く感じられた。

 しかし本番を迎えると様子が違った。
 余分な力は抜けていたと思うのだが、同時に打撃力も押さえ気味になってしまったのである。
 これには失敗した。

 芝居の真ん中あたりから「やばい」と思い、丁寧な芝居を心がけたが、反省点は多い。
 やはり本番には魔物が住んでいる。

 本番後、飯野の駄目出しは、「間延びしていた」の一言。
 「酒を飲むのもいいですが、コンディションを考えて下さいね」

 本番後、中山君とラーメンを食いに行き、生真面目な話をする。
 「役者っていうのはさ」で始まる、よくある系の話。
 ラーメンはうまかった。

 その後中山君と別れ、宇原君たちの飲みに合流。
 阿部君の話を聞く。

 「小学校2年生くらいの時にですね、近所の年上のお姉さん2人にパンツを脱がされて観察されたことがあるんですよ」
 「なに?」と、一同。
 阿部君は続ける。
 「こたつに下半身を入れまして、ズボンとパンツを脱がされたんです」
 「それでじろじろ観察されたの?」
 「ええ」
 一同、どよめき。
 「それで、どう感じたの?」
 「わかんないですよ。覚えてないんです」
 しばし哲学的な間があってから阿部君は続けた。
 「僕のものを観察した後、今度はお姉さんたちがパンツを脱いで、僕に観察させてくれたんです」
 瞬間、オギノ式と宇原君が修羅の顔になる。
 「どういうことだそれは!」
 「てめえこの、羨ましい!」
 阿部君はけろりとして続けた。
 「でも、お医者さんごっこって、そういうもんじゃないんですか?」
 妄想無限地獄に堕ちたオギノ式と宇原君が叫ぶ。
 「違うよ!」

 阿部君は時々すごい手札を用意してくるから侮れない。
 さんざっぱら我々を翻弄しておきながら、罪のない顔でつぶやいた。
 「でも僕は基本的に硬派ですから」
 片桐がのけぞっていた。

 結局本番中毎日飲んでしまった。
 明日は打ち上げだから当然飲むだろう。
 こんな自分をほめてやりたい。

 北村薫、「スキップ」読む。
 昭和40年代の女子高生の描写が、透明感があって良い。
 しかも文体がわざとらしくないから、なお良い。