楽日の大混乱

 去年の9月頃から小屋探しを始めたから、心理的には半年以上今回の公演に携わってきたような気がするが、それも本日で千秋楽である。
 あっけないといえばあっけない。
 
 間の悪いことに昼から雨が降っていた。
 しかし晴れていれば絶好の花見日和となり、それもまたかち合うと間が悪い。
 おそらく昨日今日が花見のピークだろう。
 
 昼2時開演。
 前半にそこそこ笑いが起きていたが、後半はしんとしていた。
 本番中、上手袖にいたマミちゃんが深津君と小声でなにか話していた。
 何事かと思い深津君のところへ行くと、
 「今日の加藤さんはグーパンチものっすよね」
 と言われた。
 つまり「加藤」役の山口君が羽目を外し気味という話だった。
 しかしそれを聞いていたため、自分の出番をとちってしまった。
 
 わずかな休憩をはさみ、夜6時開演。
 なにもかも見通そうとするかのような視線を客席から沢山感じた。
 見巧者ぞろいの回だったのかもしれない。
 
 終演後すぐにバラシが始まった。
 尾池さんを紹介してくれたメディアユースの山田さんもバラシを手伝ってくれた。
 床材をはがし、時間に追われるようにして作業を続けた。
 
 山口君は、
 「じゃ、行ってきます」
 と、自宅までトラックを取りに行った。
 8時15分頃だった。
 「阪上君。山口君の家、狛江でしょう。往復間に合うの?」
 「彼、かなりとばしますから」
 
 9時40分頃に照明機材の積み込みをした。
 私物をバンに入れ、雨の中劇場を後にし、尾池さんの家まで運転する。
 途中、知り合いの照明家さんの話や、スタッフさんの話をする。
 
 機材のおろし作業が無事終了し、高田馬場まで車を返しに行く。
 途中、早稲田通りを走っている時に松本健から電話。
 「今どこ?」
 「車を返す直前だよ」
 「あのさ、山口君のトラック、明日の朝8時までに返さなきゃいけないんだって」
 「えっ!?朝8時返しならはじめからバラシ用に借りるの無理じゃん!山口君には話が行ってなかったの?」
 「だから、打ち上げしてから返すのは不可能だと舞監の阪上君が言うので、男連中はみんな小金井に行ったから。とりあえずあんたは打ち上げ会場に行って」
 「今から小金井行ったら、終電なくなって戻れないじゃんか。全員行っちゃったの?」
 「行った。で、俺はお金などを自分の家に保管してからとにかく一度新宿に行くから」
 
 新宿に着くと、女性陣と、お手伝いの久保田君がいた。
 荷物を置いてから望月に電話する。
 
 「もう小金井です。とにかく学校の門も開いてなくて材は手運びになっちゃうんで全員来ました。で、ドカさんは健ちゃんが来たらドカさんちの鍵を渡して、彼を小金井に行かせてください」
 「それより戻りをどうするかだよ。終電終わっちゃうじゃん。全部俺の部屋の脇に置いていいから、今から戻って来られない?」
 「いや、どのみちドカさんの家からまた学校運ばなきゃなんなくなるし、もう来てしまったんで、とにかくやります。ドカさんはそっちの方頼みます」
 「俺のうちの鍵だけど、部屋の中じゃなくて玄関に置いていいから。材の余りはアパートの脇に置いて」
 電話を切った。
 
 健ちゃんが店に来た。
 状況確認をしていると望月から電話があった。
 健ちゃんはすぐ小金井に向かった。
 
 とはいえ打ち上げは進行させねばならないので、乾杯の音頭をとった。
 途中、バラシ中の望月、健ちゃんから連絡が入る。
 「今、学校です」
 「ドカさんちに荷物置きました」
 「山口くんがトラックを返し終わってから、彼んちの車で新宿向かいます。3時前後に着きます」
 「暖かいものと熱燗を用意しておいてください」
 
 3時に男メンバーが到着した。
 再び乾杯の音頭を取り、大入り袋を渡す。
 
 深津君は食べ物に口をつけられない様子だった。
 「いくらなんでもひどすぎます」
 と彼は言った。
 しばらく、たまりにたまっていた不満や鬱屈を聞いた。
 今回は仕込みとバラシに彼がいなかったら大幅に遅れていたはずだ。
 
 結局、一次会の店を変わらず、ずっとそこに朝までいた。
 
 TSUTAYAでCDを返してから、久保田君と一緒に小金井に帰る。
 「今回はごめんね。トラブルしかなかったね」
 「いえ。また誘ってください」
 「うん。しかし、おれ、いつも最後には久保田君に愚痴をこぼしているね」
 「どんどん、こぼしてくださいよ」
 「帰り同じだからかな」
 
 愚痴のオンパレードとなるにはさすがに疲れすぎていた。
 連雀通りの交差点で彼と別れ、うちにかえってから荷物の整理をした。
 捨てることが可能な可燃ゴミを分別出来たので、公演のゴミはすべて処理が終了した。
 
 朝の8時に寝る。