マイナス思考だった

 なんてことだ。考えすぎたためかどうかわからないが、頭痛がしてきた。
 脳の中心のやや後方がズキズキと脈打つ。
 かつて稽古のストレスと睡眠不足が重なると、じんわりとした痺れを感じた部位だ。

 脳の部位を百科事典で調べてみた上での素人考えだが、扁桃核が怪しい。
 そこは快・不快を司る原始的な部位らしい。
 快と判断した物事は、ストレスを感じることなく受け入れやすいという。

 昨日に続き、かつて引きこもった時の記憶と向き合った。
 過去を振り返るのではなく客観的に分析するには、感傷を廃さなければならず、なかなか難しい。

 劇団主宰として公演に臨むことでさらされるストレスは、作品作りとは直接関係のないものが多い。
 人間関係、金銭関係、リーダーシップなど、作品としてよりも人間としてどうなのかが問われるのだ。

 関わるのは機械ではなく生きた人間だから、思い通りにいかないことは沢山ある。
 いかないことだらけと言った方がいいかもしれない。

 5年前はそれらのストレスに対し、プラス思考で乗り切ろうとしていた。
 前向きなことしか言わないように心がけ、つとめて明るく振舞おうと努力していた。
 しかし明らかに色々なことがきつかったし、それを自覚していた。
 一人になると心に暗雲が立ち込めるのがわかった。
 芝居の評判はまずまずだったが、予算の持ち出し額は20万近くになり、先の予定も立てられずにいた。

 千秋楽が終わり数日後、舞台装置のゴミを燃やした。
 十数万かけて作った装置のゴミが灰になるのを見て、自分の中でなにかの線が切れてしまうのを感じた。

 それから数ヶ月、仕事をする気が全く起きなかった。
 昼はパチンコをし、夜は家にこもってゲームをしていた。

 その頃感じていた思いを要約するとこうなる。
 「プラス思考に裏切られた気分」

 結局、仕事を見つけて再び普通の生活が出来るようになるまで、半年近くかかってしまった。
 立ち直るきっかけは、ある時、
 「今がどん底だな」
 とはっきり感じたことだ。
 「さすがにこれ以上行ったらヤバい」
 そう思った。

 振り返ってみると、当時の自分は<プラス思考症候群>とでもいうべき<マイナス思考>に罹っていたと思う。
 「プラス思考だから大丈夫だ」
 そんなわけないだろう。

 「おれ、すげえマイナス思考なのに、なにやってもうまくいくんだよなあ」
 こういう人の考え方にこそ、プラス思考の種が隠れているように思う。
 自分は逆だったのだ。
 「運が悪いから、プラス思考を心がけよう」
 運が悪いと自覚した時点で、それはすでにマイナス思考だ。

 「俺はマイナス思考だったんだなあ」
 自覚したら、憑き物が落ちたように「幻想水滸伝2」をやる気が失せた。
 あと少しやればクリアできそうなのに、興味がわかなくなった。

 夜、実家へ。
 風呂に入りビールを1缶飲んだら、フラフラになってしまった。
 自分で思っているよりも脳が疲れていたのだろう。
 考える平日は今日でおしまいだ。