仕込み日に発熱

 6時に荻窪のニッポンレンタカーを出る。
 今回は仕込みの建てこみ量が多くないため、久しぶりにトラックではなく、ロングバンを借りた。

 いったん西荻の自分のうちに寄り、制作用具の袋を積む。
 階段を何回も上り下りしていると、積むべき荷物のどれがどうなのかわからず混乱した。
 そのまま五日市街道へ出て、西方面へ。
 環八を避け、鎌倉街道を使って町田へ出ようと試みる。

 ところが、途中で道を一本間違えてしまった。
 地理感覚的に、16号を目指していたはずなのだが、どういうわけか町田街道を北へ向かう羽目になってしまい、高尾の近くまで来てしまった。
 開いているコンビニで地図を確認し、9時過ぎにようやく倉庫にたどり着いた。

 積み込み後、16号から東名高速へ。
 劇場には10時30分到着となった。
 荷物を下ろし、学芸大学駅まで車を返しに行く。

 12時に劇場に戻る。
 柱の建てこみ、照明の吊り作業、この二つが大きい仕事で、あとは困ったほどやることがなかった。
 マミちゃんや西野さんは小道具の袋縫い作業。
 山ちゃんは買い物。
 健ちゃんは制作の作業など。

 音響の仕込み手伝いに金高さんが来てくれた。
 レベルチェックなど助けてもらった。
 オペには前田綾香嬢。朝から来てくれた。

 夕方くらいに、役者が実際に使うロープを柱にくくりつける。
 この作業も1時間ほどで終わる。
 その後、松本さんが、柱そのものにロープをくくりつける。
 柱を作る木の素材が、別のなにかに見えてきた。
 現代美術のオブジェのようだ。
 柱とそれを縛っているロープが象徴しているものはなんだろう?
 そんなことを見るものに考えさせるような、そんなオブジェ。

 田中さんから、
 「さて、場当たりなんですが…どうしましょう?」
 と言われる。
 実際、音響照明とも、きっかけらしいきっかけがないので、どう進めたものか困ってしまう感じだったのだ。
 「通しますか?」
 と田中さんが言ってくれたので、俺の役は田中さんに代役してもらうことにして、頭から終わりまで通すことにする。
 代役といっても、俺の役は座っているだけだから、声を飛ばせば済むのだった。

 はじめのシーンからざっと通す。
 客入れ状態からオープニングまでは、客電が消えて暗転して音がフェイドアウトしてゆっくり地明かりがついてなど、少しばかり動きがあるが、そこから先はほとんど変化なしである。
 奥田さんが話し合いの時に、
 「歩きまわると、場所によって暗くなったり明るくなったりするような」
 そんな明かりができていた。
 はけ口にその変化が顕著で、これは役者が意識するしないでずいぶん差が出るなと思った。

 ラスト直前までそのままやり、いったん止める。
 第九が流れ、照明は赤と白の明かりが健ちゃんと西野さんを背後から照らす、派手でシュールなものになった。
 むしろ第九クラスの派手さで、帳尻が合う明かりだったと思う。
 見た瞬間、
 「おお、やった」
 と思った。
 こういう瞬間はとても楽しい。

 気がつけば、退出時間が迫っていた。
 役者を先に解散させる。
 奥田さんと松本さんの直しを見てから劇場を出る。

 新宿まで田中さんと一緒に帰る。
 競馬の話を聞く。
 きっかけは、バイト先に競馬新聞があったこと。
 実際に買うようになってから、実際にパドックでサラブレッドを見た時、
 「きれいだな」
 と思ったという。
 好きになったのはそれからとか。
 なんとなくわかる気がする。

 11時過ぎ帰宅。
 昼に牛丼の並、夜におにぎり2個しか食っていなかったが、特に腹は空いてなかった。
 シャワーを浴び、ビールを飲んで寝る。

 ところが、寝てから急に、体がふるえだした。
 寒気というより、悪寒。
 掛け布団を2枚にしても治らなかったので、再び浴室に行き、足湯をした。
 その後、アスピリンを飲み、横になる。
 足湯のせいかアスピリンのせいか、今度は悪寒は感じなかった。

 4時に目を覚ます。
 寝汗で濡れていたシャツを替えて体を拭いてから、体温を測る。
 38度5分もあった。