クスリに囲まれる

 朝6時と8時に2回起きた。
 その都度体温を測ったところ、6時は38度で、8時は37度6分だった。
 10時に起き、劇場に向かう。
 久我山から井の頭線。

 歩くと足下がふらふらした。
 頭は痛くないが、ボーっとしている。
 胃袋が張っていて、食欲がない。
 鼻や喉の症状は特にない。

 11時過ぎに劇場到着。
 「昨日熱出ちゃってさあ!」
 と話す。
 太田君から、
 「体温計っちゃだめっすよ! 自覚しちゃだめっすよ!」
 とたしなめられる。

 ゲネのビデオ撮影のため、松嶋君が来てくれた。
 去年自主映画を撮った時と同じ機材だった。
 音や明かりのレベルなど、事前にチェックするところはさすがに本職だった。
 写真撮影の浅香も来る。
 ビデオと写真撮影が同時に行われるのは初めてだ。

 2時からゲネ。
 声が出るかどうか不安だったが、喉には影響ないようだ。
 が、自分の台詞がない時は、柱に縛られて座ったままなので、だんだん心細くなってくる。
 この心理は、人質の心理と似ているかもしれないなあと、今更ながらに思う。
 体調の悪さは、ある意味、メソード的な肉体的記憶を増やすのに役立っているかもしれない。

 ゲネは無事終了。
 大きなトラブルはなし。

 ゲネ終了後、本番に向けて準備をする。
 とはいえ、大がかりなものはない。
 田中さんと本番前の終了時間を打ち合わせ、残った時間はひたすら体力の温存に努める。
 健ちゃんがバファリンとユンケルを買ってきてくれた。
 アスピリンを飲んでいたので、バファリンは断ったが、ユンケルはありがたくいただく。
 須賀谷さんからも、
 「薬飲みますか?」
 と言われる。
 ありがたいが情けなくもあり、情けないがありがたくもある。
 しかし、みんなから、
 「薬飲む?」
 「薬飲む?」
 と言われ続けると、インドかどこかででドラッグ放浪をしている気分になる。
 そして自分は、瞑想しているかのように、舞台で座禅を組んだり横になったりしている。
 インドが近づいてくる。象とともに。

 昼にサンドイッチ、夕方にカロリーメイトを食べた。
 お腹はまったく空いていないが、こういう時は無理に食べられる能力こそ大切だと思う。

 7時開演。
 声が出るかどうか不安だったが、テンションをあげるため無理にがなるということがなくなり、かえってよかった。
 客席からは時々くすくす笑いが聞こえてきた。
 ここは笑うところですよ、といったサインが今回の芝居ではあまりないので、そういう反応になるのが自然だろう。
 「こちらでお笑いになりますか? お持ち帰りですか?」
 くすくす笑いはわりと、お持ち帰りしやすいんじゃないだろうか。
 だが、お笑い芝居でないことは確かだ。

 ラストで、西野さんが小道具を仕込み忘れた。
 封筒を袋から出すのだが、入れ忘れたらしい。
 芝居の最中、
 「えーっと、ちょっと待ってくださいね」
 と言って楽屋に戻ってきた。
 小声で、
 「すいません!封筒!」
 テーブルにあったそれを急いで渡す。
 西野さんは舞台に戻り、
 「…あとこれ、森田さんからです」
 と芝居を続けた。
 即興的な台詞の多いシーンだからこそ、あり得るやり取りになっていた。
 台詞がガチガチに決まっていたら、どうなっていたことやら。

 終演後、お客様に挨拶する。
 木野花ドラスタ時代同期だった吉田さんが来てくれた。
 「今度さあ、ちゃんと飲もうよ」
 と言われる。
 そういえばもう、十年以上そうした飲みをやっていない。
 同窓会の時期か。

 9時過ぎに劇場を出る。
 初日打ち上げは村さ来。
 先に飲んでいる人達に合流し、ささっと乾杯する。

 お客さんとして来てくれた知人友人の面々が集い、わいわいがやがやと飲んでいた。
 忘年会のようなものだ。
 オギノ君が韓国のアダルトビデオについて話すのを聞いてから、10時半に辞去する。
 もっと色々みんなの話が聞きたかったが、明日もあるし、体調を優先した。
 もったいない。
 帰り道、渋谷まで三代川夫妻、遊くん、須藤さん、横岳さんと一緒。

 11時半帰宅。
 シャワーを浴び、暖かくして寝る。
 体調は少しずつよくなっている。
 しかし原因は一体なんだろう?
 月曜日に食べた生ガキが原因なのか?
 確かに胃袋が重いが、吐き気や下痢などの症状はまったくない。
 じゃあ風邪か?