トシちゃんはザラキをとなえた

 毎週日曜日は、近所の『食鮮館』というマーケットで朝市をやっている。
 近所の人にとっては日曜日恒例の小イベントで、開店前からちょっとした行列ができる。
 安いかといえばそれほどでもない。
 目玉の安売り商品がいくつかあり、それが客寄せの役割を果たしている。

 たとえば今日は、あきたこまちのブレンド米5?が1111円だった。
 確かに安いが、他の商品はそれほど安くはない。
 だが、開店早々に駆けつけた人たちの群れに混じり、押し合いへし合いしていると、どれもこれもお買い得に見えてくるから不思議だ。
 たぶん、朝市の雰囲気に酔わされているのだろう。
 アメ横に行くと、ついついいらないものまで買ってしまうのと同じだ。

 あきたこまちの他に、肉や野菜などを買って帰宅。
 小一時間ほどしてから昼食。
 ぶりの照り焼き、みそ汁、もやしの茹でたものを食べる。
 生野菜が高くてサラダがなかなか食べられないので、もやしで代用している。

 食後、ノートPCで台本書き。
 プロット、舞台設定、人物設定をすっ飛ばして、いきなり書いてみた。
 案の定煮詰まった。

 主人公だけは決まっている。
 下校途中にラジコンをなくしてしまい、以来20年間下校中の男。
 30歳近いというのにランドセルを背負っている。
 しかし、書き進めるには主人公の設定だけでは足りない。
 舞台となっている場所。
 他の登場人物。
 主人公の過去。
 それらの要素が必要だ。

 花屋の姉さんとの会話を書いてみたら、主人公がどこかで見たことのあるキャラクターになってしまった。
 映画『どですかでん』の六ちゃんだ。
 六ちゃんは一日中、空想の電車を運転して町を走り回っている。
 近所の小学生からは電車馬鹿といわれ、石を投げられる始末だ。
 しかし、町で一番幸せそうに見えるのもまた六ちゃんだ。

 六ちゃんとは別の書き方にするにはどうしたらいいだろう。
 そんなことを考えていたら、筆が進まなくなった。
 『どですかでん』も久しぶりに見たくなった。
 今度ダンボールにしまってあるはずのビデオを見てみよう。

 2時過ぎに図書館へ。
 インターネット検索用のパスワードを登録してもらった。

 PC関連の書架を見る
 データベースの本、JAVAの本を借りた。

 3時半に図書館を出る。
 雲ひとつない天気だったが、太陽はまだ低い位置にあり、風はとても冷たかった。
 うちに帰り、ホットケーキを焼いてコーヒーを飲んだ。
 ホットケーキに、昨日ホイップした生クリームをのせた。
 濃厚なる滋味が口中を満たす。
 とてもイケナイことをしているような気分になる。
 荒野に立つ仙人姿の自分が、
 (おまえにそんな快楽を味わう資格があるのか?)
 と心の声を発するみたいな。

 ビーフシチューを作る。
 2時間半煮込み、7時に食べた。
 それだけ煮込むと、材料のうまみがスープに溶け込み、誰が作ってもそれなりの味になる。
 パンといっしょに食べる。

 10時半頃、近所の酒屋にビールを買いに行った。
 田原俊彦の『顔に書いた恋愛小説』が有線で流れていた。
 これには不意をつかれた。
 店に入るといきなり銃を突きつけられたみたいなものだ。
 一曲丸ごと聞いて思った。
 SMAPは歌がうまいんだな。