コンボ技を決められた夜

夕方、西荻窪のビストロサンジャックにて、知久寿焼ライブを見る。
2006年8月に行ったのと同じ形式で、店も同じ。
ただ、当時サンジャックは荻窪にあった。
西荻に移転したのだ。

住宅地の真ん中にあった以前の場所と比べ、現在の場所は駅から近い。
ビルの地下1階にあるから、よりライブハウスっぽさが味わえる。

しかし狭さは変わらない。
30人も入れば立錐の余地なしという感じになる。
カウンターで飲みものを買い、サンドイッチを一つもらって、壁際の席に陣取る。
足下が寒かったが、寄りかかれるので具合がよかった。

冬に合わせた選曲なのか、ライブの前半はしっとりした曲が多かった。
途中のMCで、亜脱臼したばかりだと話していた。

『ねむけざましのうた』
『きみしかいない』
『ロシヤのパン』
『ねむれないさめ』
『326』
『らんちう』
『月がみてた』

などなど聞く。

『月がみてた』はアンコール曲。
お客さんの人気も高かった。

『らんちう』は、たま時代の有名な曲だが、ギター一本で低音をかき鳴らして歌う今日のバージョンはまことに素晴らしかった。

満足して店を出る。
腹が減っていた。

すぐ近くにある「晏閣」という中華料理店で刀削麺を食べる。
練った小麦粉の固まりを包丁で剥いたような麺だった。
もちもちして食べ応えがある。
スープもこってりしていて大変おいしい。

背後のテーブルに女性客が3人座っていた。
一人が熱心に、恋愛について話していた。
耳障りな声ではなかったが、滑舌良くはっきりと話していたので、内容が丸わかりだった。

「私って恋愛体質なの」
という自己分析トークから、

「石垣島に行ったの」
と旅行話になり、

「地元のバーへ一人で入りおじさんと仲良くなった」
自慢っぽくなり、

「海外に行くと日本人女性はもてる」
一般論を語りはじめ、

「なぜなら肌がきれいで」
「華奢で」
「人の気持ちを考えてあげられるから」
「優しくて」
「外国の男には、大変可愛く見える」
一般論の五連鎖をかましてきた。

とどめは、
「え、私? もてた」
「でも向こうの男の人って日本人女性を彼女にすることをステイタスっていう風に感じているフシがあって、それに気づいたらむかついたんで、つき合わなかった」
という自己アンサー自己クエスチョンから続く必殺コンボ技だった。

俺は、テーブルごとそこに倒れたかった。