『進撃の巨人』に少しずつはまる父

朝は食べそびれる。
カロリーメイトがあったのだが、それを食べるほど腹が空いているわけでもなかったし。
急に暑くなって、熱いものや辛いものを食べづらくなっている。

昼、「西胡春」を近くに見つける。
新宿三丁目にもある食べ放題中華の店だ。
確か三丁目の方は「上海酒場」と名前を変えている。
同じ名前の店があるためらしい。

入ってみると、おなじみ、ボリュームたっぷりの中華屋さんだった。
レバニラ炒めを頼む。
もやしがたっぷりで嬉しい。

貧乏学生に、
「おまえ腹へってるかー、飯食ってけー」
みたいなノリで、安い食材をうまく使って、腹一杯飯を食わせる。
街の中華屋のそういう精神は、尊いと思う。
酢豚にケチャップを使っていても許せる。

手塚治虫『紙の砦』は、手塚先生ご自身が登場する作品を収めたアンソロジーだ。
戦前と、戦後間もない頃を描いた作品が多い。

その中に、漫画家としてデビューしたばかりの手塚先生が、美人編集者といい仲になりそうになる話があった。
今夜、手塚先生の部屋に彼女が来るという話を聞いた中国人の陳さん(だったか?)は、

「その日はデートの前にたっぷり精のつく料理作るアル!」

と、大張り切りで胸を叩いた。

その日手塚先生はお腹を空かせて陳さんを待った。
ところが陳さんは闇市の取り締まりで捕まってしまっていた。
彼女が来る時間が迫る。
手塚先生は色気より食い気を選び、陳さんを待ち続ける。
夜遅くに帰ってきた陳さんは呆れて、
「もう、何も言うことないネ」
とつぶやく。

この話が、もの凄く好きだ。
戦後の、本気で腹を空かした経験のある人にしか描けないリアリティがあった。

メシを食わせて人をもてなすことに、味の要素はいらないと思う。
もちろん、まずいものをあえてつくることはないけれど。
基本的に俺たちはほ乳類なのだから。
腹を空かせた同類がいたら、何か食わせてやろうとする、そういう本能を持っているのだから。
「メシ食ってけ」
この言葉は、人類愛の言葉なのだ。

夕方、実家へ。
ロールキャベツを食べる。

先週『進撃の巨人』1話から4話まで録画したDVDを父に渡した。
父は何度か見返したらしい。
今日は5話から8話までを録画したDVDを持って行った。

5話といえば、衝撃的な結末に派手な反応をする外国人の動画が多数Youtubeにアップされている回だ。
父が5話を見始めたので、こっそりデジカメで動画を撮る。
ラストの、そのシーンがきた。
アルミンの叫び声が響く。
しかし父は微動だにせず、タクワンをもぐもぐ咀嚼し続けていた。
6話を経て7話を見終わると、
「これ、エレンだろう?」
と聞いてきた。

「北斗の拳」が少年ジャンプで連載されていた時、南斗最後の将がユリアであることを、父はかなり初期に予言していた。
若い頃から現在まで、B級アクション映画を中心に、おそらく10000本以上の映画を観ているであろう父にとって、残酷とされている描写も意外な展開も、想定の範囲内らしかった。

だが、1話から8話まで観ることで、その面白さは理解したらしい。
次に実家に帰る時は、9話から12話を見せようと思う。