5時半起き。外は雨が降っていた。
セブンへ行き、サンドイッチを買った。いつもニコリともしない女性店員が、最近入った店員と談笑していた。
7時に家を出て高円寺へ。38分の高尾行きに乗った。立川で青梅線に乗り換え、9時に御嶽に着いた。
雨は小雨になっていたが、やむ様子はなかった。駅のベンチでサンドイッチを食べ、コーヒーを飲んだ。
駅前の道を奥多摩方面に歩く。左手にリバーハウスという建物があった。
中に入る。
下に降りる階段があった。若い男性が上がってきた。
「カヤックコースの方ですね。どうぞこちらへ」
階段を降りる時に彼は言った。「今日は塚本さん一人ですよ」「え?」「ですから、たっぷりと堪能してください」
夏に高知へ旅行した時、予約していたシーカヤック体験コースが台風のため中止になった。そのことが心残りになっていた。カヤックなら近くでも体験できるのではないかと調べると、奥多摩の白丸湖で実施していることがわかった。それで、空いているだろうと思って連休前の平日に予約をした。しかし、雨のせいなのか、入っていた他の客は、皆キャンセルしてしまったという。
受付を済ませ、インストラクターの指示に従い、ウェットスーツに着替えた。持ってきたTシャツとサーフトランクスをその上に着て、上からレインウェアを被った。
リバーハウス内には何匹もの猫がいた。撫でると、こちらを見ようとはせず、うるさげに身をよじって離れていった。
車に乗って白丸湖へ移動した。インストラクターはタノさんという人だった。車内で、シーカヤックをやろうとしたら台風でできなかった話をすると、「シーカヤックとカヤックは違うものなんです」と言われた。シーカヤックは、まっすぐ進むことに特化したカヤックとのことだった。
白丸湖に着いてから、漕ぎ方と乗り方と降り方を教わった。簡単な説明だった。すぐに、乗ってくださいと言われた。習うより慣れろということだなと思った。
乗ってみると、丸太の上でバランスをとっているように、上半身が左右に揺れた。「頭を傾けないようにすれば大丈夫です」タノさんが言った。
最前教わった通りに漕いでみた。右側を漕ぐと左に旋回し、左側を漕ぐと右に旋回した。回ってしまう時は素直に回った方が「沈」しないとのことだった。
方向転換のやり方を教わってから、タノさんについて、ダムの近くまで行った。
「一番深いところです」
谷川をせき止めたダムの、谷の高さ分が深さになっていた。50メートル近くあるらしかった。
そこから岸辺に沿って川を遡った。岸には、マタタビや胡桃の木が自生していた。
サップという立ち漕ぎボートを、女性三人組が漕いでいた。立っても安定するほど、ボードは大きくてしっかりしていた。タノさんによると、男性三人までなら大丈夫らしい。「四人だとさすがにひっくり返りますけど」
カヤックは左に旋回しがちだった。右より左の漕ぎ方が弱いためだった。
遡っていくと、流れがだんだん強くなってきた。川の真ん中に岩場があり、川幅が狭くなっているところを上るのが一苦労だった。登ってから岸にカヤックを寄せ、オールを水底の砂地にさし、カヤックを固定して一休みした。
雨はずっと降り続いていたが、濡れてもいい格好をしていたので何とも思わなかった。目の前を初老の男性とコーチの女性がカヤックで上っていった。二人とも、力を込めず、楽々と漕いでいるように見えた。見るのとやるのとは大違いだと思った。
そこからさらに上流へと向かった。しかし、流れはどんどんきつくなってきて、あるところから先へは行けそうになかった。カヤックが回転しそうになると、ブレーキをして方向を元に戻していたため、推進力がなくなり進めなくなっていた。しかし、流れが速いところで回転するままにしていると、方向転換できぬまま下流へ下ってしまいそうだった。タノさんも、今日のところはそのあたりで十分と思ったらしく、「下りましょうか」と言ってくれた。
下りは楽だった。
雨が強くなってきた。雨粒が水面に波紋を立てる。それを山々が左右から包んでいるのを、湖のど真ん中でパノラマ状に眺めるのは、とてもいい気分だった。酒があったら飲みたかった。
乗り場に戻り、カヤックの排水処理をした。並べてあったところにカヤックを戻し、駐車スペースまで歩いた。
車に乗る時、サーフトランクスがかなりずり落ちてるのに気づいた。トランクスを気持ち上げてから車に乗った。
リバーハウスに着いて、ライフジャケットとシューズを脱いでタノさんに渡した。ウェットスーツとレインウェアは更衣室のかごに入れてくれと言われた。更衣室でウェットスーツを脱ぐ時、足から抜くのに苦労した。
シャワーを浴びて私服に着替え、受付をした部屋に行った。タノさんがサービスのコーヒーを持ってきてくれた。写真のダウンロードの説明を受けていると、他の団体客が六人ほど部屋に入ってきた。
コーヒーを飲んで御嶽駅の時刻表を調べた。1時半過ぎの電車があった。1時過ぎにリバーハウスを出た。タノさんが入り口まで見送りに来てくれた。礼を言って別れ、駅まで歩いた。
駅のベンチに座り『溺レる』を読んだ。電車に乗ってからも読み続けた。
青梅で東京行きの特快に乗り換え、国分寺で快速に乗り換えた。
東小金井で降り、「宝華」に入った。ネギ丼宝そばセットの中盛を食べた。
店を出て再び快速に乗った。高円寺で降り、東急ストアに入って生筋子を探した。売っていなかった。
OKストアに行ってみると売っていた。200グラムくらいのをひと房買った。他に、スモークサーモンとポテトフライと発泡酒を買った。
4時に家に着いた。給湯の温度を60度にして、熱い食塩水を作った。筋子をボウルに浸してほぐし、水で何度か洗ってから、醤油とみりんのつけ汁につけた。
発泡酒をひと缶あけて、つまみなしに飲んだ。すぐに眠くなったので、3時間昼寝をした。起きると8時だった。スモークサーモン、ポテトフライを肴に発泡酒を飲んだ。
カヤックが回転しないようにするにはどうしたらいいかネットで調べた。舳先が左右に振れるのは構造上仕方ないので、その振り幅を小さく等しくするのがコツらしかった。しかし、言うのとやるのとは大違いだとも思った。