コドモのクニ展

朝食を食べてから、今日は何をしようかと考え、釣りに行くことに決めた。夕方5時半が満潮時刻だったので、3時頃に釣り場に着けばいいと考えた。

「夕食はあんたが作って」と母に言われた。すると釣りに行く前に買い物か。昼過ぎだろう。

昼まで時間があったので、実家近くの関口美術館に行ってみることにした。

実家から歩いて5分ほどで本館に着いた。入り口の扉は閉まっていたが、中の明かりはついていた。スマホで時刻を見ると10時55分だった。まだ開館していないのだろうと思い、隣にあるウエルシアに入って時間をつぶすことにした。
ウエルシアでサプリメントを見ていると、コンドームを売っている棚にアダルトグッズも置いてあった。うちの近所にはねえぞ。すげえぜウエルシアと言うべきか、すげえぜ江戸川区というべきか。

11時を過ぎてから本館の前にいってみたが本館の前に行ってみたが、扉は閉まったままだった。閉まっていても別にいいのだが、やっているかどうかわからない感じだった。中の様子を覗いても係員の姿は見えなかった。

公式サイトにアクセスすると、東館で展示をやっていると案内があったので、そちらに行ってみることにした。

東館は本館のすぐ近くにあった。入り口に「西岡民雄 コドモのクニ展」の案内板が立っていた。中に入ると初老の男性から「いらっしゃいませ」と挨拶された。「最初のお客さんですよ。ご記入をお願いします」
真っさらのノートの一番上に名前と住所を書いた。

予備知識ゼロ、めぐりあわせ上等の精神で入ったので、脳を空っぽにし、作品を一つ一つ見た。「上の階にもありますから」と別の男性が言った。作者の西岡さんだった。

上のフロアには誰もいなかった。ゆっくり見ていると下のフロアに女性がやってきて、西岡さんと何かを話していた。アシスタントさんのようだった。

絵の中の子供たちは、昆虫や魚を捕まえ、花や動物を愛で、果実を積んでいた。みんな一心に何かをしていて、絵のこちら側を見ていなかった。しかし、幼い子供のうち何人かは、こちら側を見ていた。みんな一心にオレのことを見返していた。

下のフロアに戻ると、やって来た女性がお茶を入れてくれた。窓際の椅子に座りお茶を飲みながら、西岡さんに作品を収めたアルバムを見せてもらった。
作品が形になるまで、ずいぶん時間がかかることがあると西岡さんは言ったが、アルバムには半世紀近く描き続けてきた作品の写真が収められており、その数は膨大だった。時代順に見ていくと、あるモチーフがあって、それを描きたい思いがまだもやっとしている段階から、これが描きたいのだという気づきになり、描くのだという意志になり、最後には無心でそれを描いているというふうに移り変わっているような気がした。カマキリの絵が沢山あるのが嬉しかった。子供時代、カマキリはカブトムシに匹敵する昆虫界のヒーローだったなあと思い出した。今でもカマキリを見つけると捕まえる。

アシスタントの女性は杉並で育ち、住まいは東小金井とのことだった。「宝華」のマスターが亡くなったという噂があるとその女性が言った。驚いた。噂に過ぎなければいいのだが。

気がつけば1時間以上色々見させてもらった。美術館ではなく、アットホームなギャラリーで世間話をしているような気分になった。

本館にも西岡さんの作品が展示されているとのことだった。アシスタントの女性に案内され、本館へ行ってみた。入り口はさっき来た時と変わっていなかった。
中に入ると大きいサイズの作品が展示されていた。「うおう」と声が出た。
奥の方から4歳くらいの女の子が走ってきた。目が合うと静止し、まじまじとこちらを見た。見返すと怖がるかもしれないと思ったので、笑顔を絵の方に向けたまま「お客さんですよ」と言ってみた。初対面の猫に対する時と同じことをしていると思った。女の子はしばらくこちらを観察し、敵ではないが面白そうな奴でもないと判断したらしく、出てきたところへ走って行った。
ん? あの子がオレを見ていた様子は、作品の中で、絵のこちら側をじっと見返してくるコドモたちみたいだったぞ。

アシスタントの女性に挨拶し本館を出た。12時40分になっていた。昼飯をどうしようと考えた。「宝亭」に寄るか? しかし腹は減っていない。
とりあえず帰ろう。家の余りもので何かしら作ることはできるだろう。

昼に雨が降るという予報だったがよく晴れていた。風はかなり強く吹いていた。

昼食にバナナを二本食べた。風はどんどん強くなっていった。天気予報を調べると風速13メートルと表示されていた。さすがにそれは大げさだと思ったが、5メートル以上なのは確実だった。ルアー釣りが出来る状況ではなかった。

結局、釣りには行かないことにした。これからどんどん暖かくなってくる。行く機会は何度でもあるだろう。

夕方、買い物に行く。カレイ、小ネギ、にら、キャベツ、生牡蠣を買った。

夕食に、煮魚、ネギのぬた、ニラの味噌汁などを作った。牡蠣はサイズが大きく、大根おろしで洗って食すと美味だった。
煮魚は失敗した。味が薄かった。カレイの解凍が中途半端だったせいだ。

イチローが引退した。
日本でMBLの開幕戦をやっていたが、その試合を最後にすると本人が決断したらしい。
実感がわかなかった。