4時起き。ご飯を炊き、昨日の夕方に漬けたきゅうりと一緒に食べる。
外は昨夜から、雨が降ったりやんだりしていた。
4時50分に家を出る。雨はちょうどやんでいた。
6時過ぎ、羽田空港着。搭乗手続きをし、荷物を預け、缶コーヒーを飲む。
7時25分の松山行きに乗る。台風が近づいていたが、離着陸に影響があるのは東海地方だったので、遅れなどはなかった。
たぶん愛知とかその辺上空は、こんなだった。
8時50分、松山着。すぐリムジンバスに乗って松山駅へ。途中、あの芦原会館の看板があった。
松山駅前に着き、コインロッカーでキャリーバッグを預ける。JRの券売機で高浜への切符を買おうとするが、地図に名前がなかった。スマホで調べると、高浜へ行く電車はJRではないらしい。
スマホで駅を調べ、よくわからないながらも走ると、大手町駅に着いた。そこから高浜駅への切符が買えた。
10時過ぎ、高浜に着いた。目の前にフェリーの乗り場があった。中島の大浦港行きのチケットを買った。
やがて船が来た。階段を上って、ベンチ状になっている椅子に座った。
出航時間まで本を読んで時間をつぶそうと思っていると、係員がやってきて、乗船料金を請求してきた。切符は買ったはずなのでその場で見せた。
「それ、隣の船です」
なんだと?
急いで船を降りると、いつの間にか隣の桟橋に船がきていた。そして、そいつは、今まさに出港するところだった。
おーい! 待ってくれ! おーい! オレを置いてかないでくれ!
「平家物語」の俊寛は、こういう気分の七万倍くらい辛い気分だったのだな。そうだよな。なあ、おい、なんとか言ってくれよ。
犬は、暑いし、相手するの面倒くさいらしかった。
仕方なく次のフェリーを待つことにした。次の便は高速フェリーだった。普通のフェリーは1時間で中島に着くが、高速フェリーは30分かからないのだ。
駅前の売店で、マーガリン入りコッペパンとサンドイッチを買って、待合室で食べた。
11時過ぎに高速フェリーが来た。乗りそびれたフェリーより、二回りくらい小さかった。
高速フェリーは速かった。水の上を、タクシー並みのスピードで走った。
島がいくつか見えた。
11時半に、忽那諸島の中島の、神浦港に着いた。港の前からバスに乗り、最初の便で到着するはずだった大浦港へ移動した。
港の事務所でレンタサイクルを借りた。クロスバイクはすべてレンタル中だった。ママチャリならあるという。ふらふらとその辺を走れればいいと思っていたので、ママチャリを借りた。
中島は瀬戸内海忽那諸島で最大の島である。みかんの名産地らしい。トライアスロンの会場にもなっている。それ以外の知識はなし。とにかく、一周ぐるっと回ってみようと思った。
島の東側から海沿いを北に向かう。まず、造船所があった。
ビーチがあった。しかし、人っ子一人いなかった。
カートをコインロッカーに入れ、リュックだけ背負っていたのだが、持って来た水着をカートに入れっぱなしだったのを後悔した。
誰もいねえし、泳いじゃう、おれ? なっちゃう、全裸?
全裸欲を振り払い、ママチャリのペダルを漕いだ。道はすぐに上り坂になった。ママチャリだと押して歩かないときつかった。
途中、みかん栽培用のモノレールがあった。
島の北から西へ回りこみ、進路を南へ変更する。島は入江ごとに集落があって、家が建ち並び、郵便局があった。
このスケール感に覚えがある。
ハイハーバーだ。「未来少年コナン」の、ラナの故郷だ。
島の西側を南下している時に、ハイハーバー説が頭に浮かんだのだった。すでにママチャリで10キロ以上こいでいた。
そして暑かった。
漕ぎはじめた時は汗がだらだら流れたが、西側にきたあたりではそれほどでもなくなっていた。体内の余った水分が出尽くしたのだろう。
コインロッカーを使うため、両替代わりにミネラルウォーターを買っていたので、それを時々飲んで水分補給をした。
島の南西部の、「城」と呼ばれる岩のところに着いた。引き潮の時だけ渡れるらしかった。幸い、まだ道が出来ていた。岩から岩へ渡る時、その間にいるたくさんの魚たちがパニックを起こし、おれから逃げようとしていた。安心しろ食わねえから。
「城」を過ぎ、島の南側を回りこむと、高速船で着いた「神浦港」だ。そこから、バスで走った道を通る。
途中で、バス通りをそれ、海岸側のルートをとった。そこに海水浴場がある。
行ってみた。
水着ギャルはおらず、海の家は見あたらず、サザンは流れず、どうも、なんつうか、俗っぽさのないビーチだった。
ビーチを横目で見ながら海沿いの道を走ったが、途中で行き止まりになったので、道を戻って細道を通った。再びバス通りへ合流し、自転車を借りた大浦港に着いた。島一周にかかった時間はおよそ2時間だった。距離は、迷ったりした分を含めて27キロ。ママチャリで27キロは、なかなかなものだと思う。
島の消費活動を担うスーパーで、黒ラベルを買った。人っ子一人いなかったビーチに行き、木陰でそれを飲んだ。
4時まで木陰で休んでいると、白人系外国人の男性が犬と一緒に歩いてきた。犬は首輪を外されていた。犬が俺のところにきた。「こんにちは」と犬と飼い主に言うと、犬は体をすり寄せてきた。頭を撫でようと思って手をかざすと、「アブナイデス」と、白人男性は言った。
「どうすればいいかな?」と聞くと「アタマデス」と彼は言った。それでもう一度、犬を脅かさないように、そっと手のひらを頭に置いた。撫でたかな? くらいの手応えだった。犬はオレの右へ行こうとしたり、左へ行こうとしたり、オレに登ろうとしたりしていた。
「アリガトウ」と白人男性は言い、犬とのロードワークを再開するように去っていった。
港湾事務所に自転車を返し、5時過ぎの高速船を待った。
高速船で高浜港に戻り、電車で大手町駅へ。そこから、松山駅まで歩き、コインロッカーから荷物を出した。
市電に乗った。松山市には環状の市電がある。それで北側に行く。
着いたのは鉄砲町。踏切のすぐそばに、「さくら食堂」という定食屋がある。前から行ってみたいと思っていた。
まず、定食屋の思想として、この二つ。
そして、本棚に、なぜか「AKIRA」
こうなったら、「俺達ァ健康優良不良少年だぜ」と答える以外なく、チキン南蛮は当然、ダブルで頼むしかなかった。
食っている時、久しぶりにアドレナリンが出た。美味かった。
7時過ぎにホテルへ。別館だったが、大浴場は本館とのことで、下駄を借りて歩いた。下駄は歩きにくかった。
風呂は道後温泉から湯を引いていてまことに結構だった。部屋に戻り、さて、夜は書き作業を…などと思ったが、ママチャリ激走で思った以上にヘロヘロだった。10時半就寝。