5時頃に起きた。昨夜電気をつけたまま横になり、そのまま寝てしまった。寝直して、6時20分に起きた。
6時半に宿の朝食ビュッフェへ。熊本の郷土料理がたくさんあった。京都のおばんざいを思わせる味つけのおかずが多かった。
太平燕、だご汁、馬すじカレー、さつま揚げ、辛子蓮根、熊本風おでん、卵焼き、ひじき煮、その他色々なものをちょっとずつ取り、総量でちょうど良くなるように調整して食べた。
8時半にチェックアウトする。食後、荷物整理やネットでの調べものなどしていたら、思ったよりも遅い時間になった。市内観光をする代わりに、熊本駅までゆっくり歩いた。
9時39分の普通で新八代に向かう。
車中、松田美智子『仁義なき戦い 菅原文太伝』読む。
10時12分、新八代到着。
改札を出ると、目の前におれんじ食堂の受付係がいた。名前を告げチケットをもらった。1号車だった。今日は2号車に取材が入っているのをご了承下さいと言われた。
喉が渇いていた。ホームに自販機がなかったのでエレベーターで地上におり、新幹線のロビーで自販機を見つけ、コーヒーを買った。
改札に戻ると、ロングヘアの若い女の子二人と、GoProを手にした若い男がいた。彼らが取材チームのようだった。仰々しくなかったのでほっとした。
ホームにはおれんじ食堂の列車が到着していた。入り口でチケットを見せると、客室乗務員の女性に席まで案内された。窓際のカウンター席だった。
10時40分、列車は出発した。
今回購入したチケットはスペシャルランチのコースだった。新八代から川内まで4時間かけて走り、その間、不知火海や東シナ海の景色を眺めつつ、ランチコースを楽しむというものだった。満席当たり前の人気コースだったが、キャンセル待ちを申し込んでいると、意外とあっさりチケットがとれた。キャンペーン価格で4000円引きだった。
途中停車する四つの駅で、お土産がもらえることになっていた。持ち帰るための紙袋がテーブルにあった。結婚式みたいだった。
飲み物はフリードリンクだった。喉が渇いてコーヒーを買ってしまったが、その必要はなかった。
オレンジジュースを頼んだ。当然100パーセントだが、以前飲んだことがある味だった。後で客室乗務員の女性に尋ねると、品種は不知火とのこと。愛媛か和歌山で飲んだ覚えがある。
日奈久温泉で最初のお土産としてちくわをもらった。木の皿に大ぶりの竹輪がのり、爪楊枝がささっていた。お茶も添えられていた。駅に用意されたテーブルに座って食べた。魚の旨味が強く出ている竹輪だった。おでんやうどんの具にしたらさぞうまいだろうと思った。
客室乗務員の女性と、八代市名産の晩白柚という柑橘類の話をした。世界最大のザボンで、スイカほどの大きさになる。売っているのかと聞いたところ、市場には出回らないので朝市で買うとのことだった。別の乗務員の男性に聞くと、甘いだけでなく大人の味がすると言っていた。苦みが少し混ざっている感じだろうか。
佐敷駅を過ぎてから前菜が出てきた。
牡蠣のオリーブオイル漬け、鰆の焼き物、鰹の橙酢が美味だった。おせち料理に入っていそうなメニューだった。鰹の橙酢を食べている時、こういうものを自分でも作れるようになりたいと思った。自炊ではなく、料理をちゃんと学びたい。
コースは、鍋、鮨、デザートの順に続いた。
水俣駅から鍋になった。鰤のしゃぶしゃぶだった。鍋に焼けた石を入れ、だし汁を注ぐと、あっという間に沸騰した。冷めないうちに具材を入れ、好みの加減に火を通し、ポン酢と薬味でいただいた。
出水駅から鮨になった。出水でやっている寿司屋の大将が握った鮨らしく、関東のものと比べると、形が円筒状になるほどしっかり、きゅっと握られている印象があった。それと、稲荷寿司を茶漬けにした、出汁稲荷が出てきた。
阿久根駅でデザートが出た。みかんのフィナンシェだった。チョコレートソースをかけ、コーヒーと共に味わった。
コース料理の合間に、電車が駅に15分ほど停車する時間があった。それぞれの駅で降り、お土産をもらったり散策を楽しんだりした。
出水に着く前に、小学校低学年くらいの女の子と、それより二つか三つくらい年上の男の子が、グリーティングカードを乗客に配りに来た。ふたりとも乗務員の制服を着ていた。寿司屋の大将のお子さんで、そうやってお手伝いをしているようだった。
出水で二人は降りた。取材に来ていたGoPro軍団は、撮れ高を稼ぐため二人のところへ行き、Youtube臭のする動きでなにやら喋っていた。
電車が出発する時、兄妹は手を振りながら追いかけてきた。『祭りの準備』のラストシーンみたいで、じーんときてしまった。
薩摩高城駅で停車した時、東シナ海が見渡せる丘まで乗務員が小道を案内してくれた。若い男性だった。その小道はおれんじ鉄道の職員たちで作ったものらしい。
「それまでは、丘がどーんとあるだけで、この道も獣道でした。木を切ったり切り株を抜いたりして、このようになった次第です」
喋りがひょうひょうとして面白い若者だった。
「道の両脇に埋めてある木は、そういうわけで枕木を再利用しているのです。穴のあいてない方を上にしてあります」
「向こうに見える建物はヒラメの養殖場ですが、MBCと書いてあるのが見えますでしょうか。鹿児島の人間はその文字を見ると、テレビ局を連想します。実は、テレビ局が養殖場を運営しているのです」
「この近辺の海域では、そういうわけでヒラメが釣れます。おそらく養殖場のヒラメが脱走し、生き延びているものと思われます。海は公共のものですから、海で釣る分にはいくらでも釣ってよいようです」
「このあたりは東シナ海からひっきりなしに風が吹いてまいりますので、向かいの岩をご覧になっていただけれおわかりになると思いますが、草はどれも斜めになっております。我々地元の人間はあの岩のことを『リーゼント岩』と呼んでいます」
「あちらに鐘が吊されており、石がハートマークに並んでいます。鐘は、鳴らせるのですが、カップルで鳴らすと別れを促進させてしまいます」
楽しいおしゃべりだった。
2時48分に川内に着いた。各駅のお土産にもらったお菓子で、手提げの紙袋は結構いっぱいになっていた。
3時、川内駅のレンタカーで車を借りた。受付にいた女性から、鹿児島県内を回って観光スポットでスタンプを押してもらうと5000円がキャッシュバックされるキャンペーンを教えてもらった。
指宿に向かった。
今日は朝からずっと曇っていたが、夕刻になり指宿に近づいてくると太陽が出てきた。車の窓をあけて風を感じてみたが、寒くはなかった。
5時、指宿到着。駐車場探しに少し手間取り、5時を少し過ぎてから宿にチェックインする。
宿のおじさんは気さくな人だった。ウェルカムドリンクとフルーツをごちそうになった。
「今日はね、砂風呂休みなんですよ」
おじさんが言った。宿に着いたらすぐに砂風呂へ行こうと思っていたので残念に思った。しかし、おれんじ食堂は満喫したし、別の温泉が近くにあるので、そこに入れれば十分だと思い直した。
宿に来る途中見つけたユニクロで、室内着になりそうなウェアを買ってこようと思った。車を出し、来た道を戻った。6時頃ユニクロに着いた。日は暮れていたが、西の空はまだ少し明るかった。
ヘンリーネックの長袖シャツと、速乾性のパンツを買った。ダイソーが隣にあったので釣り具を見るため覗いた。欲しいのはなかった。
宿に戻る途中コンビニに寄り、ビールとサワーとつまみを買った。なぜかキャプテンハーロック銘柄の酒が売られていた。
宿に戻るとおじさんに、砂風呂の営業が再開したと言われた。
部屋に買い物袋などを置き、着替えと最小限の荷物を持って、すぐ近くにある『砂むし会館砂楽』に向かった。
素肌に浴衣を着て、海岸に下りると、よしず張りの海の家みたいな建物があった。入ると、係の人が何人か、シャベルで砂をならしていた。こちらへ、と案内されたスペースに移動する。枕状に盛り上げた砂にタオルを敷き、頭を乗せて仰向けに横になると、両脇の係の人が砂を体にかぶせてきた。ずしゃっ、ずしゃっ、という音が聞こえた。『ごっつええ感じ』でやっていたリアルポッキッキのコントを思いだした。
体を埋められると、体全体を満遍なく指圧されているようで、心地が良かった。
砂は熱くはなかったが、体温の逃げ道がなくなるせいか、数分で額に汗が浮かんできたのがわかった。
海岸沿いにあるので波音がよく聞こえた。良い気分だった。このまま寝てしまいそうだった。
10分と少し経ってから、自力で砂から出た。最初に両腕から出し、腕で砂をかき分けるようにすると、案外簡単に出られた。出たとたん、浴衣が汗でびっしょりになっているのがわかった。温まった体が急速に冷え始めていた。
砂を洗い流してから、施設の温泉に入った。サウナもあったので、水風呂との間を二往復した。
お土産を買って施設を出た。月が出ていた。
夕食を食べるために、海岸沿いの道を少し歩き、お店を探した。道沿いにある『居酒屋悠』という店に入った。
生ビールと冷や奴を頼んだ。ビールが来てから、きびなごの南蛮漬け、鶏のタタキ、さつま揚げを頼んだ。きびなごは新しいのが入っているので刺身はどうかとマスターに言われた。おすすめ通り刺身に替えてもらった。
きびなごの刺身は歯ごたえが案外あった。酢味噌とわさびをつけて食べると美味だった。さつま揚げは、すりおろし工程から店でやっていたのか、形が不揃いで身がふわふわし、抜群に美味しかった。
9時まで店で飲んだ。
宿に戻り、買っておいたビールを飲み直した。おれんじ食堂でもらったお土産で一番かさばっていた塩せんべいがいいつまみになった。
12時就寝。