大隈半島で釣り気分を味わう

6時起き。
荷物のパッキングをしていると、おじさんが呼びに来た。下に下りる。オムレツ、ソーセージ、サラダ、果物、トーストの朝食をいただいた。朝食なしで宿を予約していたのに、サービスで用意してくれたのだった。

7時ちょっと前にチェックアウトした。おじさんは玄関から外まで見送ってくれた。隣家の玄関前に白い犬がいて、おじさんをじっと見ていた。尻尾をそっと振っていた。おじさんは犬に気がつくと、「帰ってたのかー」と言いながら近づいた。犬は尻尾を振る速度を倍速にしておじさんにすり寄った。隣家の人が出てきておじさんと話し始めた。犬は隣家に引っ込んだ。犬種はわからないが、かわいい犬だった。近寄って撫でたかったが、犬が感じる対よそ者ストレスを慮ってやめた。

ナビを山川港にセットした。レンタカーに搭載されていたカーナビが使いにくく、施設検索がうまくいかなかった。やっとのことで目的地を『山川港』に設定し車を出したが、反対方向に進んでいるような気がした。何分か走ってから、目的地までの距離と到着時間表示を見ると、残り50キロと出ていた。絶対違うと思い、車を止めて目的地の再設定を行った。現在地点から7キロほどだった。もし気づかずに走り続けていたらどうなっていたか。

山川港から8時のフェリーに乗り、大隈半島の根占に渡った。風が強く吹いていた。船尾から山川港の方角を見ていると、その向こうの開聞岳がよく見えた。

根占から小一時間ほど車を南に走らせ、10時前、佐多岬に着いた。本土最南端の岬だった。観光案内所でスタンプを押してもらった。

遊歩道を展望台まで歩いた。途中に神社があったので、賽銭箱に110円を入れた。お参りを済ませて先へ行こうとすると、風が吹いて絵馬が一斉にカラカラと鳴った。神様がリアクションしてくれたように思え、妙に楽しくなった。

佐多岬の展望台から、東シナ海と太平洋を眺めた。寒かった。曇っており、屋久島や種子島は見えなかった。それでも、迫力のあるオーシャンビューだった。

観光案内所に戻り、ソフトクリームを買った。駐車場の真ん中にある大きなガジュマルの木を眺めながら食べた。

土地の植物相は本州と違っているように見えた。南の島に近いのではないか。さすがに石垣島ほど暖かくはないので、両方の要素が混ざった感じになっていた。

車は6時に鹿児島空港の支店に返却する予定だったので、その時間に間に合うよう、北上しながら観光することにした。昨年、串本から松阪に移動した時と同じパターンだ。

11時前に佐多岬を出た。11時20分頃、佐多の西海岸沿いにある小さな集落に着いた。漁港に車を止め散策した。

風は相変わらず強かった。護岸ブロックの向こうに見える海は少々荒れていた。集落は全体的に寂れていて、人が住んでいないことがひと目でわかる家屋や、シャッターが閉まったままの釣具店などがあった。

12時、その集落にある『時海』という食堂へ行き、時海丼という海鮮丼を食べた。おばちゃんが、「お魚サービスしておきました」と言いながら丼を持ってきた。刺身が丼の縁から溢れそうになるくらいたくさんのっていた。

この店は『秘境めし』として有名らしく、Googleマップのコメントを読むと、予約しないと入れないことが多いらしかった。今日は平日だし混む季節でもなかろうし、大丈夫だろうと思って予約しないで集落まで来たのだったが、散策中店の前に車が三台止まっていたのを見て急に焦り、開店時間の30分前に電話して予約をした。しかし予約なしで入ったカップルもいたので、入れないかもと思うのは杞憂だった。まあ、入れたのでどちらでもいい。

店を出て、ナビを垂水の道の駅にセットした。1時間半で道の駅に着いた。途中、ここで釣りができそうだなと思える小さな砂浜を何度か見たが、いちいち止まっていたらキリがないので、道草は食わずに直行した。

道の駅でスタンプを押してもらうと、昨日レンタカーで説明を受けた5000円キャッシュバックの条件は満たしてしまった。こんなもんでくれるのかなあと半信半疑になりながら、スタンプシートを助手席わきにしまった。

道の駅に、ドクターフィッシュの体験コーナーがあった。足をつけると集まってきて角質を食べてくれる小魚のことだ。10分で800円だった。これは、やらないわけにはいかない。

靴下を脱ぎ、足をウェットティッシュで拭き、水槽に足をつけた。魚たちはすぐに集まってきて、それぞれが小さい口で指や足首やくるぶしや足の裏に吸い付いた。何十匹もの魚に一斉にそれをされると、一瞬、とてつもなくくすぐったいと思ったが、すぐに慣れた。
「手を入れてもいいですよ」と係の女性が言ったのでやってみると、魚たちは手にも寄ってきた。見ていると、いじらしくもあり愛おしくもあった。何かごめんねー、という気分になった。

1キロほど北にある垂水港に移動し、本城川河口に近い駐車スペースに車を止めた。ネットで調べたところ、垂水港の防波堤は、以前、釣りスポットとして有名だったが、現在は釣り禁止になっているようだった。

リュックに、パックロッドとリールとルアーとスナップを入れていた。釣れるとは思っていなかったが、旅先でルアーを投げる経験はしてみたかった。
本城川の河口で投げてみようと思い、河原に近づいてみた。垂水港側の岸は潮が引いており、水深がほとんどなさそうだった。向こう岸の方が水量は安定していそうだったので、橋を渡った。
しかし、向こう岸の川岸には塀があり、それに沿って消波ブロックが敷き詰められていた。河口と海の角になっているあたりで塀を乗り越えてみたが、消波ブロックの上で釣る価値のあるポイントには見えなかった。

結局、橋を渡って元の岸に戻った。港湾部に近づくと、釣り禁止の札が立てられていた。
干潟になった川岸に下り、水際まであるいた。そこから河口に際に投げれば、釣りができそうだった。

ルアーを投げては引いた。底をズル引きするかと思ったら、案外そうでもなく、底から数センチ上をキープしてルアーは引かれてきた。
アタリはまったくなかった。一度根掛かりしたが、竿の尻を叩いて竿先を揺らすと外れた。
砂地だし、釣れるとしたら、マゴチやヒラメかなあと思ったが、どちらが釣れても持って帰ることはできない。それもまた残念だなあと思った。

潮は少しずつ満ちてきた。防波堤の壁際に行き、そこから海の方へアップクロスで投げることを繰り返していると根掛かりした。ロッドをしゃくっているとラインがふっと緩んだ。ああ、切れたな、と思った。ラインはリーダーとの結節部分で切れていた。このあたりが切り上げ時だろうと思った。時刻は3時半になっていた。

車に戻る途中、干潟に包丁が落ちているのを見つけた。魚を締めるために持ってきた人が落っことしたのだろうと解釈した。

桜島の有村溶岩展望所にナビをセットした。4年前、桜島に来た時は、反対側の湯平展望所に上った。その時は、桜島から噴煙は出ていなかったが、今日は釣りをしている時から桜島の噴煙が見えていた。

有村溶岩展望所には、観光客が一人もいなかった。桜島は目の前にドーンと見えた。見晴らしは大変良かった。てっぺんから出している噴煙は、地熱による水蒸気みたいに見えた。

4時半に展望所を出た。空港に向かう。ナビの勧めるコースは途中で有料道路を通るものだったが、一般道の方が3キロほど距離が短く、かかる時間も5分ほどしか違わなかったので、一般道コースに切り替えた。

レンタカーの隣にガソリンスタンドがあった。探す手間が省けて大変助かった。満タンにし、隣のレンタカーに車を返却した。
スタンプを押したシートを渡すと、女性の事務員がトレーに5000円を乗せて差し出してきた。あらあら、本当にくれちゃったよ、と思った。

空港内の『大空食堂』でチキン南蛮定食を食べ、薩摩REDビールを飲んだ。チキン南蛮はとりたててうまくはなかった。ビールはグラスに注ぐと結構赤かった。打ち上げとして飲もうと思っていたのだが、他のメニュー心惹かれるものもなかったので店を出た。

保安検査場を早めに突破し、搭乗待ちスペースのJAL側にあったカフェで、さつま揚げを肴にビールを飲んだ。

7時半までネットを見たりブログを書いたりした。

店を出て、搭乗口そばの椅子に座り、『仁義なき戦い 菅原文太伝』を読もうとするが、鞄に本が入ってなかった。
やべっ、どっかに置き忘れたぞ、と思い、先ほどビールを飲んだ店に行ってみたが、なかった。次にトイレを探すと、あった。胸をなで下ろした。

8時半の羽田行きに乗った。高度1万メートルを超えてから、機長のアナウンスがあった。時速1000キロちょっとで飛んでおり、到着予定時刻は9時51分とのことだった。予定時刻より早かった。速度のせいかコースのせいか。福岡行きは2時間以上かかったのに。

機内の照明が暗くなったので、読書灯をつけて『菅原文太伝』を読んだ。

羽田には9時40分頃に着いた。機長がアナウンスした時間よりさらに早かった。

タラップで下り、バスでゲートに移動した。それほど寒くなかった。今朝の指宿の方が寒かった。

モノレールで浜松町、ひと駅移動し、新橋からめとろで11時半帰宅。

部屋は寒かった。ガスファンヒーターをつけると、部屋の温度は8度と表示された。

ビールを二缶飲み、お土産に買ってきたかるかんをつまんだ。かるかんは消費期限が明日までだった。知らずに買ってしまった。真空パックされたものを買っておけばよかったと思った。

1時過ぎ就寝。