飯田線の旅

3時半起き。
水耕栽培の水補給をする。まず補給タンクを満タンにした。

朝飯に親子丼を作って食べた。割り下、玉ねぎ、鶏肉、全て使い切った。

水耕栽培の水を容器に直接バケツ1杯分補充した。水位が容器の上の方まできた。予備タンクも満タンにした。やるべき補給はやった。

荷造りをする。事前にリスト化していたのでサクサク進んだ。しかし、朝飯を作って食べたり、水耕栽培の水補給をしたりなどの作業もあったから、時刻は4時半近くになっていた。

4時40分頃に家を出る。高円寺の駐輪場に止め、三日分のシールを買って自転車に張った。

5時11分の総武線で荻窪へ。そこから中央線快速で高尾。高尾から中央線普通の松本行きに乗り換えた。

車内はけっこう混んでいた。甲府を過ぎたあたりで空いてきた。上諏訪で降り、駅にある足湯にちょっと浸かり、飯田線豊橋行きに乗り換えた。

車内でハイデガー『存在と時間』8巻を読み終えた。最終巻である。そもそも未完の作品ではあるが、それでも20世紀最大の哲学書を読破できたのは嬉しい。読み始めたのは昨年の7月頃だったが、本気で取り掛かったのは8月だった。フジロックの行き帰り、新幹線の中で溶けたハンダみたいな脂汗を浮かべながら1巻を読んだ記憶がある。

読み終えたとはいえ、わかったとは到底いい難い状態なので、もう少し突っ込んでみたいところだが、さすがにもう一度1巻から読み返すのは厳しい。解説だけ読み返すか?

上諏訪で買った白ワインをちびちびやりながら、引き続き、カフカの『審判』を読み始める。再読。

飯田線の車両に、中年のカップルが座っていた。男は禿頭。女は鈴木ヒロミツ風。
この二人が、ぺちゃくちゃと延々喋っていた。内容は他愛のないことなのだが、うるさいことこの上なかった。

途中で車掌が二人のところにきて、大声の会話はお控えください云々と注意していた。二人とも恐縮していたが、しばらくするとまたぺちゃくちゃやりだした。

大きな声で喋るのはヒロミツの方で、禿頭氏は「しーっ、声が大きいよ」みたいなことを言ってたしなめている風だった。ヒロミツが、そういう加減ができない人なのかもしれなかった。

12時50分過ぎ、天竜峡に着いた。

テンリュウ堂というカフェへ。店内は満席だったが外の席があいていたのでそこに陣取る。ランチはプレート系のが売り切れだったので丼物を頼んだ。牛しぐれ丼だった。

日陰だったが暑かった。混んでいるのにひとりでメニューをこなしているのか、30分近くしてやっと牛しぐれ丼がきた。味、盛り付け、小鉢ものの組み合わせ、どれをとっても観光地の土産物屋クオリティを大きく超えており、こりゃ、このあたりの食い物屋系では一人勝ちだろうなあと思った。

食後に頼んだコーヒーを待ったが、これも時間がかかりそうだったので、店の中に入ってキャンセルし、代わりにソフトクリームを頼んだ。遅くなったお詫びといって、店のお兄さんがソフトクリームをサービスしてくれた。

外に出るとソフトクリームがあっという間に溶け出したので、慌てて食べた。食べ終わってから天竜川にかかっている橋を渡り、一眼レフで写真を撮った。

川下りの船着き場を過ぎると、地元で採れた野菜を売る販売所があった。りんごと、栃の実の入ったかりんとうを買った。

橋を渡って駅側に戻り、階段で川岸に下りた。川の水量はたっぷりあって、流れは速かった。

岩に腰掛けて足を水につけてみた。あまり冷たくなかった。

駅に戻り、麦茶を買い、電車を待った。15時12分の豊橋行きに乗った。地図を見たところ、天竜峡駅から先は進行方向右側に座った方が天竜川をよく見られそうだったので、右側の席に陣取った。

秘境駅が続いた。小和田という駅などは、近くに道路がなく孤絶した、飯田線でしか行けない場所にあったが、そこで乗り降りする客が数名いた。次の電車が来るまで秘境駅で2時間ほど過ごすのだろう。

豊橋まで3時間以上電車に乗っていた。その間、景色を一眼レフで撮り、ただ眺め、カフカの『審判』を読んで過ごした。

線路が天竜川から離れ、浜松市の山奥から愛知県に入ってから、土地が平地になってきた。ボックス席の向かいに母娘客が座っていた。シューズがおそろいのデザインだった。二十代前半くらいの娘は寝ており、母はスマホで景色の写真を撮っていた。素朴でかわいい母娘コンビだった。

18時24分、豊橋で新快速米原行きに乗り換え、19時28分、名古屋で快速みえに乗り換える。
快速みえは去年の夏に松阪から名古屋へ移動する時に乗った。今日は逆方向に走った。途中の駅から津まではJRでないらしく、車内で車掌に500円ちょっとの乗り継ぎ料金を払った。

20時29分、津に到着。路線的に予想はしていたが、県庁所在地がある駅にしては、かなり質素な構えだった。

ホテルにチェックインし、バッテリーの残量が残りわずかになっていたスマホを数分だけ急速チャージし、食事をしにホテルの外に出た。

『わたしのキッチン』という店に入った。目をつけていたイタリアンレストランだった。客は一人もいなかった。カウンターに座り、グラスワインの白に、鶏肉のステーキ、大根の生ハム巻きを食べ、ワインをお代わりし、アーリオオリオのパスタを食べた。どれも美味しかった。

コンビニで柿ピーとビールを買ってホテルに戻った。シャワーを浴び、日記を書いたが、途中で眠くなったのでやめ、12時前就寝。