心理戦

 無事直ったとはいえ、完全ではない。
 コンデンサの膨らみは妊娠8ヶ月状態で、いつ何時臨月を迎えるかわからない。
 気がついたらパソコンの中でコンデンサが破水しているかもしれない。
 電解液の破水だから、回路部分にかかればショートするし、ショートすれば燃える。
 あっという間にマザーボードはおシャカになる。

 だからやはりコンデンサの交換をするつもりだ。
 ネットオークションで国産品が1個70円で売っていたので、それを8個購入。
 修理が成功するしないにかかわらず、今回のトラブルで新しいPCを作る時期が来たと実感した。

 夕方、千早で稽古。
 長谷部さんと西野さんが二人で戦うシーンを稽古していた。
 『幕末太陽伝』で南田洋子と左幸子が大喧嘩をするシーンは、助監督の今村昌平が演出したらしい。
 髪をひっつかむわ、止めに入った男には噛みつくわ、1階から2階まで追いかけて落っことそうとするわ、見て大変おもしろい。
 そんなことをぼんやり頭の隅に置きながら、蹴る場所ややられた時の顔などをあれこれ言う。

 女囚がベテラン看守に怒られるシーンを稽古する。
 内山さんの台詞で、そのまま言ったらイヤな人間になるものがあったので、それを売り言葉に買い言葉で言ってしまうようにするため、長谷部さんと小突き合う動きを入れた。

 小突き合いの末、悪いことを全部長谷部さんのせいにする内山、という図式。
 シーンが終わった後、猪口さんが異を唱える。
 猪口さんは女囚たちの犯した罪を許し、今回は大目に見る主旨の台詞をその前に言っている。
 なるほど、大目に見るということは女囚の人間性を信じ、まっとうに更正できる人間だと信じたからできたことだ。
 その舌の根も乾かぬうちに目の前で小競り合いをするのは、これは猪口さん演じるとしては耐え難い。
 
 というのが猪口さんの意見だった。

 中野教官に言われると悪いなあという気になると、女囚の内山さんや三枝さんも言った。
 女囚もそう思っていたのなら、話は当然振り出しに戻る。
 内山さんの台詞をどうするか、だ。

 内山さんの台詞は、悪事を長谷部さんのせいに押しつけるような内容だった。
 だから、言った瞬間それが本心ではないとわかるようでないと、言われた方は相当むかつくし、見ているお客さんも同様だろう。
 中野教官にすまないなあという気持ちが、その言葉を言わせ、言われた長谷部さんも瞬時にそれがわかるシーン。
 この難しいニュアンスを、内山さんは出すことになった。
 小競り合いをするより緊迫感がある。

 占領軍の男を演じる高野君はキャラクターを固めてきた。
 気を抜くとよくあるパターンに陥ってしまうたぐいの、難しい役なのだが、うまいことパターンからはずれる感じの姿勢やしゃべり方だった。
 高野君にくっついてくるのが普天間君。
 独特の動きやしゃべり方のため、普通にやっててもどこかおかしいように見えるが、だからこそごく普通の演技を目指した方がたぶんいいだろう。
 90%普通にやれて、ぽろっと10%だけ変な動きが漏れ出てしまう感じの方が、印象に残ると思う。
 逆に、独特の動きを前面アピールすると、その動きに客が早々と慣れてしまう。

 9時15分稽古終了。
 心理戦が多くなってきたため、考えることも多い。