映画『敵』見る

9時過ぎギリギリ起き。

午前中、担当ファイルのセキュリティ設定作業をし、質問メールを送る。

昼飯に、ご飯、よだれ鶏の残り、かぼちゃ煮つけ、そぼろ納豆、煮干し田作り、かぶの葉よごし。

走りに行く。富士見ヶ丘の大勝軒まで往復。いつか行きたいと思っていた店なので、ルート確保のために走ったようなもの。12キロ。ラスト2キロはキロ5分台にペースアップした。

午後、会議参加。セキュリティ設定について説明を聞くが、結局のところ、システムを現在のものに変更する時、説明責任だけでなく質問義務も怠っていたのだなあ。質問義務は我々の義務だ。両方が1:1の割合になっていないといけないが、すごく面倒くさい。なぜ面倒くさいのだろう。

しかし、面倒くさいと思うべきではないからという動機で質問義務を履行するから、ひどく面倒くさいものになるのだ。面倒くさいと思うのは理由があるはずなのだ。

夕食に、ご飯、かぶの葉よごし、かぼちゃ煮つけ、煮干し田作り。ありものでササッと済ませた。

6時40分、テアトル新宿にて、映画『敵』見る。水曜サービスデーのためか、混んでいた。

画面はモノトーン。いわゆる白黒ではなく、全体がセピア色になっていた。主人公の渡辺儀助を長塚京三が演じる。日々の食事を自炊する場面で、米を研ぐ手つきが気になった。また、家事の動作がせわしなく、丁寧さを感じられなかった。長塚さん、あるいは監督のどちらかが、家事を日常的にやっていないのではないかと思った。ああいう米の研ぎ方はしないものなあ。

原作のストーリーは単純で、引退した男やもめの大学教授が静かに老後を暮らしていくのだが、並行して、インターネット上では『敵』が迫りつつあるという情報が飛び交っている。儀助の日々は変わらないのだが、『敵』の情報は切迫感を増していくというもの。

映画では、『敵』の描写を、北から攻めてくる軍事力的な、それでいて正体不明のものにしていた。儀助が夢で見る悪夢のような描写もあった。ホラームービーのように恐怖をかき立てる演出であった。そこはちょっと違うかなあ。原作では、『敵』が何であるのか説明はされていないし、作品の主題は、儀助の日常が細かく描写されていることそのものであったと思う。

個人的な解釈だが、いつ死ぬかを残りの貯金から具体的に算出し、その日が来るまで日常生活を丁寧極まりなく過ごす老人が、静かに老いていく時の感覚を、まるで敵が迫り来る時の感覚であるように見立たというのが、本作の『敵』というタイトルの由来だと思っている。だから、ホラーのような表現じゃないのだ。その数段階手前の『不穏』くらいである方がしっくりくる。そして、主題は敵ではなく、丁寧に描写された日常生活そのものにある。

この作品は、沢田研二が主演した映画『土を喰らう十二ヵ月』と同じような手法で演出されるべきであったのではないか。実際、主人公の境遇も、物語における時間の流れ方も似ている。

カラー映像でないこと欠点は、冷麺を食べるシーンに表れていた。原作のこの部分に強い印象を持つ読者は多いと思う。

「これに大量のキムチを入れなければ何がゆえの韓国冷麺であるか。」

「これを食べる時はあまりの旨さに何も考えられない。韓国冷麺というものは旨いものてあるとのみ考えてひたすら食べる。」

筒井康隆『敵』新潮文庫、2000年、P48

映画では、正直、麺の種類がよくわからなかった。キムチを追い増しする演出も加わっていたのだが、原作を知らない人からすると、意味がわからなかっただろう。ここはカラーにして、キムチの赤さと、翌日の下血をしっかり表現して欲しかった。

鷹司靖子を演じた瀧内公美と、クラブ「夜間飛行」で働く大学生菅井歩美を演じる河合優実は、どちらもびっくりするほど適役だった。特に河合優実は、声のトーンや抑揚のつけ方、誰にも媚びない自然な笑顔が、ものすごく魅力的だった。こりゃ、映画監督さんたちがほっとかないはずだわ。

儀助の年若な友人湯島定一と、教え子の椛島光則は、それぞれ松尾貴史と松尾諭が演じていた。なぜか椛島は関西弁を話す設定になっていたが、それならキャスト交換だろう。松尾諭が関西弁ネイティブなのかはわからないか、ちょっと違和感を覚えた。椛島は儀助に対する古典的な師弟関係ロマンに酔っているフシがあり、儀助の役に立つ機会をとらえるたびに『戯羅痢』と目を光らせ、書物整理や井戸掘り手伝いをするという、とってもおいしい役なのだ。そういう部分がもっと見たかった。

なにせ『敵』は大好きな本なので、十回以上は読み返している。この作品を読んだことで冷麺好きになった。もちろんキムチはたっぷり盛る。そういう立場から、原作との相違点を挙げ連ねて映画を批評するのはフェアではないと思う。むしろ、よくぞこの作品を映画にしてくれたと感謝すべきだろう。次は是非『夢の木坂分岐点』を映画化して欲しいが、無理かなあ。

9時過ぎ帰宅。ビールを飲み、半藤一利『昭和史 1926-1945』を読む。ビールを飲み終わってから、梅酒を少し飲み、腹が減り、サッポロ一番を鰹出汁で作って食べた。

11時40分就寝。