芝浜

 3時過ぎに起きた。
 レンジを開けると、肉はすっかり冷えていた。
 アルミホイルに包んで冷蔵庫にしまう。
 鍋で戻した椎茸のだし汁でお煮しめを作る。
 なますとニシン巻きとかまぼこはある。
 黒豆、栗きんとん、田作り、数の子、伊達巻きは、今年はなし。

 夕方、もう一度買い物に行く。
 お酒のほか、買い足りないものを買う。

 6時くらいからテレビをつけ、年越しそば代わりのうどんを茹でて食べる。
 芝居で散々、NHKと連呼してきたためか、いつになく紅白が気になる年の暮れだ。

 一方で、K-1とPRIDEの格闘技番組もまた気になる。
 小川対吉田、山本KID対須藤元気はなんとしても見たい。

 まずは紅白。
 去年に続いて氣志團が登場。
 曲はまたしても「One night carnival」だったが、去年同様パフォーマンスで見せてくれた。
 冒頭いきなり、裏番組である格闘技の選手入場パロディがあり、曙とボビー・オロゴンのかぶり物をつけたダンサーがぞろぞろ出てきた。
 ノックアウトされた曙の真似あり。
 一瞬、二子山親方の葬儀にのぞむ若貴兄弟のそっくりさんが登場した。
 これには爆笑してしまった。よくぞやってくれた。

 チャンネルを変え、PRIDEの近藤対中村を見る。
 3Rから見たので近藤が押しているように思えたが、結果は中村の判定勝ちだった。
 試合終了後にしっかりと握手する二人の姿には好感が持てた。

 ジェームス・トンプソン対ジャイアント・シルバは、トンプソンの圧勝に終わった。
 シルバのでかさは総合では見世物的価値しかないんじゃないか。

 K-1では、永田克彦が試合をしていた。
 兄は新日本プロレスの永田裕志。
 顔立ちは整っているし、闘い方もクレバーで、兄よりもスター性があると思った。

 紅白に戻り、グループ魂を見る。
 冒頭で港カヲルが、
 「オリコン最高位42位!」
 と前説をしたのには笑った。
 しかし、
 「たまに暴力ふるうけど」
 という歌詞がそのまま紅白で流れるのは、大丈夫なのだろうか。
 破壊(阿部サダヲ)は歌の途中で審査員席の琴欧州に近寄り、舞台度胸満点に絡んでみせた。
 そうでなくては。

 あとは紅白に見るものはない。
 格闘技のはしごをするため、チャンネルを切り替え続けた。

 K-1の曙対ボビー・オロゴン。
 またも客寄せパンダとして出場した曙。
 会場人気はボビーの方が上。
 むしろ曙はヒール扱いだ。
 こういうマッチメークは嫌いだ。

 だが、夏から武藤のもとでプロレスの巡業を経験してきた曙は、少なくとも昨年や一昨年よりはスタミナがついたと思う。
 最大の武器は体重であることを知ったファイトをしていた。
 下敷きになったボビーに声援が飛ぶ。
 しかし、ボビーに恨みはないが、心の底から曙を応援していた。
 結果は判定でボビーの勝利。
 まあ仕方ない。
 が、これまでの負けよりはずっと進歩していたと思いたい。

 K-1ではHERO’Sの試合もやっていた。
 所英男とホイス・グレイシーの試合。
 これは面白かった。
 総合では自分より大きい相手と戦うことの多いホイスが、自分より小さくてスピードのある相手とやる試合。
 テクニック、経験は当然のことながらホイスが上。
 パワーもホイスが上。
 しかし、スピードと度胸では、所がホイスを上回っていた。
 パンチを浴びせ、ホイスに鼻血を出させた。
 上になりながらもホイスに足を固められ、執拗に頭にパンチを浴びた。
 テークダウンされても一瞬の隙をついて脱出した。
 ホイスを抱え上げ、パワーボムみたいにリングに叩きつけた。
 まるで、少年ジャンプのヒーローみたいなファイトだった。
 結果は引き分けだったが、大満足だ。

 桜庭と美濃輪は、桜庭が関節を決めて完勝。
 ミルコはスタミナ切れか、いいところなく判定負け。

山本“KID”と須藤は、目に求まらぬ速さでパンチを打ち合った。
 ミドル級ならではのスピード感。
 結果は、一瞬の隙をついて山本“KID”が須藤にパンチを浴びせたところでレフリーストップ。
 見ている時は、
 「えーっ? なんで止めるの?」
 と思ったが、スロー再生を見ると、5、6発のパンチが須藤の顔面をしっかりとらえていた。
 一瞬で決着が着いたのは残念だが、すごいスピードだった。

 吉田対小川。
 マスコミは、遺恨の対決と言って盛り上げていたが、正直なところ遺恨なんて大したもんじゃないと思う。
 商品価値を高めるため、そんなことをでっちあげているだけだ。
 プロレスならともかく、格闘技の試合でそんな販促にのってたまるか。
 吉田の入場では、去年と同様セコンドに世界のTKこと高阪剛がいた。
 この人がセコンドにいるということは、吉田サイドの理論面技術面は世界レベルということだ。

 試合が始まってすぐ、
 (こりゃ、小川じゃ絶対勝てないな)
 と思った。
 小川に上になられてもパンチを冷静に防ぎ、マウントポジションをくるっと返す吉田。
 超一流同士の試合じゃ見られない、教科書みたいな返しだった。
 結果は、腕ひしぎ逆十字で吉田の勝ち。
 そりゃそうだ。

 全体的に、ヘビーよりミドル級の試合が面白かったと思う。
 試合後の後味も良かった。
 印象に残ったのは、やはり所。

 番組としては、K-1、PRIDE、紅白、どうでもいいといった感じ。
 格闘技関係の番組は、試合までやたらと引っ張るのが頭にくるし、開会のパフォーマンスもつまらない。
 「本題に入れ」
 と言いたい気分になる。
 紅白はみのもんたが本調子じゃないところが良かった。
 キャラクターが台本によって封印されていた。
 みのを封印できるほどつまらない台本。
 ある意味、毒をもって毒を制すだ。

 しかし、紅白を含めたすべての番組中一番良かったのは、MXテレビ。
 立川談志の『芝浜』
 大晦日の夜に談志の『芝浜』をテレビで見られるなんて、こんな幸せがあろうか。
 この時ばかりはテレビ画面にかぶりつき集中した。
 圧巻。
 たとえば何十年かたって、2005年の大晦日を思い出し、
 「紅白見てた」
 「K-1見てた」
 「PRIDE見てた」
 は、なんの自慢にもなりゃしないが、
 「MXテレビで談志を見てた」
 は、自慢できると思う。
 一生モノだった。

 紅白で白が勝ったことを耳だけで聞き、近所の神社へ向かう。
 意外なほど境内は静かで、参拝する人はほとんどいなかった。
 小金井では天神様に行ってたので、12時近くになると受験生が沢山並んでいたので、並ばずに初詣ができたのは拍子抜けだった。
 おみくじを引くと、中吉。
 悪くない。