昼の2時に小屋入りするため、12時半に家を出た。
時間が余ったので阿佐ヶ谷大勝軒でつけそばを食べる。
それでも劇場はまだあいておらず、しばらく阿佐ヶ谷地域センターのベンチでぼーっとしていたら、自転車置き場の陰から片桐が現れた。
「なにしてるの?」
「ぼく、昨日ここに自転車停めておいたんですけど、夜にシャッターが閉まってとれなくなっちゃんたんです」
「それで昨日は歩いて帰ったのか」
2時に小屋入り。
鶴マミ、ノブ君と3人で、ラストシーンの稽古を丁寧にする。
口で説明しただけで、伝え切れてなかった部分を、二人に伝えることができた。
これでかなりいいシーンになると思う。
4時に役者が続々登場。
アップを済ませ、5時半から客席作り。
7時半開演。
最初のシーンで登場する片桐の長ゼリがかなり早口で、滑舌の限界点に近づいていた。
そのため彼は何カ所か台詞を噛んでいた。
おそらく、本番であるという気持ちの高ぶりと、それに伴う心拍数の上昇で酸素が足りなくなり、早く台詞を言い切って酸素を吸いたいという生き物の本能がそうさせているのではないか。
それから、沢山お客さんが入って、劇場の空気が薄くなっているということもある。
俺のシーンでさえ、動きはたいしたことないのに、楽屋にはけると呼吸が苦しい。
ラジ男のラストシーンは、一緒に出て表情を観察する限り、昨日より数段良くなっていた。
複雑な悲しみを表現する術を知らない人間は、なんでもない表情を浮かべざるを得ない。
その方が、悲しみの表情より悲しい。
そして、わかる人にはわかり、わからない人にはわからない。
終演後、阿佐ヶ谷北口の店で飲む。
阿部千尋が来る。
今年から小学校の教師をやっているという。
しかも小3の担任だそうだ。
「振り回されてます」
と、にこにこしながら彼女は言った。
マグに初めて出演した時から、もう4年が過ぎたのだな。
尾池さんと色々な話をする。
今回は、稽古の段階から、塵が積もって山となる迷惑をかけてしまった。
オレの台本は、照明がフォローしないと良さが出せない本だと尾池さんは言った。
たとえば、舞台装置の扉にしっかり明かりを当てるか当てないかで、装置の見え方ががらっと変わるところなど。
実際の話、尾池さんのフォローがないと仕込みやゲネでの自分はパニックを起こしていただろう。
だがパニックの源が消えたわけではない。
だれがそれを処理したのかといえば、それは尾池さんだ。
信用する、ということと、依存する、ということは、やはり違う。
節約する、ということと、ケチ、ということも、やはり違う。
まだまだ甘い。
12時過ぎ帰宅。
疲れがどっと来た。
シャワーを浴びると頭がぐらぐら揺れた。
2時就寝。