飲みたい時は外で

9時前に起きた。サッカーの結果を検索する。ポルトガルが負けた。メッシとロナウドが去り、フランスの若き10番エムバペが残った。

トマトを一つ収穫し、バケツ一杯の水を足す。

食後、外を見たら、トマトの棚が倒れていた。はさみとヒモを持って地面に下り、倒れた三脚支柱を見ると、三つの支柱をつなげていたゴムが劣化し切れていた。
四つの三脚のうち、棚から遠い長辺の二つをバラした。近い方の三脚は無事だったので、横一本の支柱を渡したままにしておき、トマトの蔓を引っかけておいた。
バラした支柱を、三脚ではなく二股の二等辺三角形に立て、クロスする上部に長い支柱を渡した。二股の外側から補強の支柱を斜めに立てた。結合部はヒモで縛った。三脚支柱より丈夫に立った。
トマトの蔓を引っかけている長辺も、同じように三脚立てから二股立てに改修した。果実ネットを上に這わせ、短い支柱を長辺に垂直になるよう何本か渡し、結合部分をゴムで止めた。きつく止めなくてもいい部分だったので、ゴムで十分だと思った。
防鳥ネットを垂直に張り直し、トマトの蔓を果実ネットの上に這わせた。棚が倒壊した時、実を何個もつけている蔓が折れていた。しかし、辛うじてつながっている部分から水と栄養は供給されているようだったので、折れた部分が接触するようヒモで結んだ。

炎天下の作業で汗だくになったが、結果的には前より丈夫な棚ができた。

昼過ぎ、冷や汁食べる。

夕方、5時に高田馬場へ。
飲み屋に入るには早かったので、パチンコ屋の休憩スペースで10分ほど涼んで時間をつぶした。「冬のソナタ」のパチンコ機のパンフレットがあった。一部をポケットにしまった。

5時半、「とらや」に入り、生ビールを飲んだ。
6時すぎ、ナベさんりほさん来る。昨日「暑気払いしませんか?」とメッセージを送ったら、二人ともオーケーとのことだったので、飲むことになった。
ここひと月、家で全然酒を飲まなくなった。飲みたい時は誰かを誘い、外で飲むようにしている。すると、外で飲むことが、以前よりも楽しくなってきた。
日曜の馬場は、店ガラガラ。でも店員のねえちゃんは激マブ。そして生中290円。文句なし。

ノンテーマで雑談する。ナベさんは8月、りほ氏は年末に芝居があるという。ナベさんはイルカ団出演。久しぶりだそうだ。りほ氏は「三度目の思春期」の二回目の公演を新御徒町のギャラリーでやるという。駅の北側だそうだ。先日、ピザ屋「想兵衛」に行く前に、中学生の小娘どもが太鼓をぽんぽこ叩いていたエリアかもしれない。どんな内容か聞くと、ラブファンタジーだという。アース・ウィンド&ファイアーの曲が脳内に流れた。

冬ソナのパンフをテーブルに出していたら、どういう話なのかとナベさんが聞いた。見たことがないので知らないが、伝え聞くところに寄ると、男か女かどちらかが記憶喪失になる系の、そんで相手のことを忘れてしまう系の、すれ違い系の、などなど、系を混ぜ込んで答えた。
ふと思った。冬ソナを見たことない奴が想像で再現した冬ソナ、という芝居は、面白いんじゃないか?

記憶喪失から別の話を連想する。

カップル二人とも記憶喪失になり、二人は初対面という感じで再会する。そして、またしても恋に落ち、つき合うことになるのだが、二人の記憶が少しずつ元に戻ってきてしまう。よりによって、相手の嫌なところなどが。
二人とも、自分が記憶喪失になったことは知っており、どうもこれは、うちら二人とも、もともとつきあってたんじゃね? と思い始める。しかし、思い出し切ってしまうと、今のグッドな関係が壊れるんじゃないかと不安になる。二人は医者を訪れ、どうか私たちの記憶喪失が治らないようにして下さいと頼む。

医者とカップルの三人芝居だな。

思い出せないといえば、ある役者の名字をいつもど忘れしてしまう。下の名前で呼んだことしかなかったためだが、ナベさんもりほ氏もその役者についてそんなことにはなっていないらしい。つまり、また今日もその人の名字をど忘れしてしまったのだ。
5月に森さんと飲んだ時、ど忘れしたことをその場で指回し体操をすると思い出せた。今回もやってみることにした。一回目では思い出せなかったが、二回目を終えた直後、思い出した。

ど忘れしたことを自力で思い出せた瞬間の心地よさったらない。というより、ど忘れしている時、それを思い出そうとするのは、生理的欲求に近いものがある。たぶん、記憶喪失の人も、思い出したい欲求を常に抱えて生きているのではないか。思い出さない方がいいとわかっていても、思い出そうとせずにはいられないのだ。

改名の話をする。
自分の名に(仮)をつけたペンネームを十数年前に考えたことがあった。胸に(仮)マークの入ったTシャツをプレゼントしてもらったことさえあった。しかし、結局踏み切れなかった。なぜその名前にしたかというと、姓名判断の結果が抜群に良かったからだ。
「そんなもん信じてるんですか?」ナベさんが言った。言われてみれば、それほど信じてはいない気がする。
その場で、自分の名前と、(仮)つきの名前を、ネットの姓名判断に入力してみた。結果は、本名は昔より良くなり、(仮)つきは昔より悪くなっていた。それでも(仮)つきの方が良いが、昔ほどの差はない。
なぜか、芦田愛菜の名前で判断をしてみた。「なぜ?」とりほ氏が言った。「いや、すくすく育ってるし」といいつつ結果を見てみると、それほど良くはなかった。「ね。そんなもんですよ」ナベさんが言った。

「いっそのこと、かっこいい名字に変えたらどうです」とナベさん。
かっこいい名字をその場で出してみる。伊集院、綾小路など、三文字がかっこいいのはわかっているが、使い古されてもいる。新しい、三文字の、かっこいい名字はないか考えていると、思いついた。

唐木田

「唐木田健一って、かっこよくない?
「おー」「おー」「それかっこいいわ」「うんかっこいい」

地名から探すと、かっこいい名字が見つかりそうだとわかったので、りほ氏の改名案も考えてみた。

「木挽りほ」
「それもいいですね」と、ナベさんは評価した。りほ氏め、なるほどね、といった反応だった。

ナベさんの場合は、下の名が大滋と書いてひろしと読ませる。
「大滋、かっこいい」と、りほ氏。「いやいや、読みがひろしってのもね。あと名字が渡辺ってのも」ナベさんが言う。
思いついた。
「つのだ大滋」
メリージェーンが脳内に流れた。

11時に店を出た。外は思ったより涼しかった。「家帰ってもクーラーなしで寝られるかな」ナベさんが言った。

11時半帰宅。