壱岐の大島で泳ぐ

朝5時起き。タイマーで目覚めたが、その後わずかの間二度寝してしまい、5時20分頃に起きた。急いで荷造りをし宿を出て、厳原フェリーターミナルに向かった。

乗船手続きをしロビーで待つ。九州郵船のサイトには30分前までに手続きを済ませるようにと書いてあったのだが、その時間を過ぎてからもゆうゆうと手続きをする客がけっこういた。

ロビーで、ファミマのカレーパンとクリームパンを食べた。

6時45分のジェットフォイルで、壱岐の芦辺港に向かった。途中、飛び魚の群れが海面スレスレを滑空するのを見た。

7時50分、芦辺港に着いた。ここから路線バスで島の反対側にある郷ノ浦港に行くつもりだった。

芦辺港の目の前にバス停があり、路線バスはこの停留所を通過しません、と書いてあった。つまり、必ず止まるということだなと合点した。路線バスの到着時間は8時6分だった。

しかし、何となく変な気分だった。停留所があるのに、わざわざ『通過しません』という書き方をするだろうか?

すると、説明書きの下にさらに注意書きがされていた。バス停はイオン前にあり、ここから徒歩2分のところだという。通過しませんというのは、つまり、路線バスはこの停留所を通らない、ということらしい。

なんて紛らわしいの! と、ご機嫌斜めな貴婦人みたいな気持ちになったが、時計を見ると8時4分だったので、無表情に焦り、イオン前を目指してダッシュした。

イオン前のバス停は、あるにはあったが、片側方向のものしかなかった。逆方向に乗りたかったので探しているとバスがやってきた。これについて行けば停留所があるはずだと思い、キャリーカートを引きずってバスを追いかけた。

ところが、バスを追いかけ、カラムーチョ食べたおばあちゃんみたいにヒーヒー言いながら、バスの曲がった道を同じく曲がると、バスはいなくなっていた。というより、曲がったところに停留所があると思って曲がったのにそんなものはなく、道だけがあり、前略、道の上より、ただ佇むだけと相成ってしまった。

「バス来ねえじゃん! 停留所ねえじゃん!」

というセリフを、きちんとした発声法を駆使して発し、もう一度さっきのイオン前に戻ろうとした。

するとバスのアイドリング音がイオン前方面から聞こえてきた。慌てて、さっき曲がった角まで走り、その方向を見ると、逆方向の停留所だと思っていたポールの前に、まんまとオレをまいたバスが止まっており、今まさに発車しようとしていた。

カートを引きずり、カラムーチョ走りをしながら手を振ると、バスはドアをあけてくれた。乗り込み、整理券を抜き取り、座り、ふー、と息をついた。危なかった。

バスは壱岐を時計回りするようにして、南西の郷ノ浦に向かった。途中、おばあさんがのってきて、壱岐病院前でおりた。ずいぶん立派な病院だと思った。

8時46分、郷ノ浦に着いた。

今日は、ここからさらにフェリーに乗って、大島という島に渡る予定だった。そこには、壱岐の人もわざわざ来ないというほどの秘境海水浴場があるという。お盆が明けた平日なら絶対空いているはずだろうと踏んで、予定に組み入れたのだった。

その前に帰りの段取りをつけた。大島に行って帰ってきたら、またフェリーに乗って博多に行き、今夜はそこに宿をとる。博多行きフェリーに乗るまでの間、キャリーカートは必要ない。で、郷ノ浦のフェリー発着所へ行き、キャリーカートをコインロッカーにしまった。身軽になった。

次に、大島へ行く『みしまフェリー』発着所の場所を確認した。博多行きフェリーの場所から、市街地方面に少し移動したところにあった。そこで11時の便に乗る予定だったので、2時間くらい時間があいた。

郷ノ浦の町をぶらつき、一眼レフとスマホで写真を撮った。

塞神社という神社があった。何も考えず115円を払ってお参りするが、巨大男根オブジェが鳥居を入ってすぐ左にあることを後で知った。どんな、いいご縁が、あるのだろう。

11時、みしまフェリーで大島へ。壱岐の南西に浮かぶ島々を結ぶ路線バスのようなフェリーだった。

11時50分大島着。そこで降りる観光客はオレだけだった。ワクワクした。

大島海水浴場への道は一本道だと思っていたが、途中にけっこう分岐があった。Google Map の助けがなければ迷うところだった。

12時過ぎ、大島海水浴場に着いた。誰もいなかった。白い砂浜と青い海と、公共のシャワーと屋根付きベンチがあった。完全にプライベートビーチ状態だった。

まず泳いだ。水は澄んでおり温かく、クラゲはまったくいなかった。遠浅ではなく、波打ち際からちょっと沖に進むと足がつかなくなったが、波が穏やかで流れもなかった。

ビーチの所々に岩が沈んだ場所があり、そういうところには魚がいた。しかし魚影は濃くなかった。崖のようになっている場所があれば、おそらくたくさんの魚が見られただろうが、海水浴場の枠内はある程度の浅さが維持されていた。岩が転がっているところにはウニがけっこういたので、もしかすると彼らが海藻を食べてしまい、海底が剥げたのかもしれないと思った。

スマホに防水ケースをつけてシュノーケリングをしてみたが、魚が少なかったので、あまり面白い映像は撮れなかった。泳ぐ分にはただただ最高だった。

郷ノ浦で買ったおにぎり弁当を昼飯に食べた。何の変哲もないスーパーのお惣菜弁当だったが、すばらしく美味しかった。ヘミングウェイ「二つの心臓の大きな川」の、缶入りスパゲッティと同じことだ。

スマホに着信があった。銀行からだった。先日、通販詐欺に遭った時、相手口座からの返金を依頼したのだが、それについての回答だった。
振込先は仙台支店。相手の口座は犯罪に使用された口座とのことで警察のチェックが入り、現在凍結されている。よって振り込みキャンセルは不可だが、被害者全員で預金額を分配することになるという。ただし預金額は7万くらいで、オレ以外何人か被害者がおり、これから増える可能性もあるとのことだった。しかも、手続き開始は半年後くらいで、返金されるのは1年後らしい。

「わかりました」と答えた。オレが振り込んだ金額は19000円。他の被害者はもっと高い金額を振り込んでいるらしい。割合的に、たぶんオレに戻ってくるのは微々たる額だろう。

まあいいや、と思った。

買おうとしたのはキックボード。今回、持ってくるつもりだった。駅から遠い海岸に向かう時、それを使うつもりだった。

今、オレの目の前にあるのは、キックボードを使って行こうとした海とは別の海だ。

目の前の海は最高だった。今、オレは、その海を独り占めしていた。だから、今、オレは最高だった。

犯人は今、きっと最高じゃないだろう。

だったら、まあいいや、と思った。

ビーチは隣にもあった。二つのビーチの中央に防波堤が突き出していた。右手のビーチのさらに右側は、崖を背景にした地磯で、左手のビーチの左側には防波堤があり、その向こうに壱岐本島が見えた。

心ゆくまで泳いだところで水のシャワーを浴び、Tシャツその他も水で洗い、ベンチ周辺に干した。
リールとロッドを持って左ビーチの防波堤に移動し釣りをした。昨日とは違い、目の前は海峡の流れがあるので魚影は濃いはずだったが、たぶんルアーを飛ばす距離が短すぎるためだろう、何も釣れなかった。表層をイカの小さいのが泳いでいた。

2時半過ぎ、釣りのポイント移動をしがてら港に向かった。しかし、釣りの出来そうな場所は見つけられず、港まで戻ってしまったため、港湾部で40分ばかりルアーを投げた。最後は高切れを起こしてしまい、なにも釣れずに終了した。

4時、郷ノ浦行きのフェリーに乗る。来たフェリーから何人か乗客が降りたが、その中に女子中学生ふうの女の子がいた。この島から壱岐の中学校に通っているのだろうと想像した。その子は淡々と坂道を上っていった。

4時50分、郷ノ浦に着いた。すぐ博多行きフェリーの発着ターミナルに向かった。

ジェットフォイルの受付をする客で窓口は混んでいた。ジェットフォイルの出発時刻は5時10分だった。30分前までに予約しないといけないというルールを信じ、その次のフェリーに乗ることにしていたのだが、こんなんだったら乗れたんじゃねえか? と思った。

しかし、別に急いで博多に行く理由はなかった。予定通り5時45分のフェリーに乗り、船の中でビールと、ウイスキーのポケット瓶をちびちび飲み、時々デッキに出て夕陽など眺めながら、ゆっくり博多に向かった。こっちを選んで正解だった。

8時10分に博多到着。ホテルまで15分ほど歩く。

8時半過ぎにチェックインし、すぐホテルを出て、モツ鍋を食べに天神に向かう。

事前に調べていた『元祖 もつ鍋 楽天地』へ。予約はあるかと聞かれたが、ベイ・シティ・ローラーズが、S! A! T-U-R! D-A-Y! の後に叫ぶ Night! みたいな勢いで「ないっ!」と答えると、ガラガラのカウンター席に案内された。

生ビールを飲み、もつを食べた。豆腐を足し、残りのもつと野菜を食べ、ハイボールを飲み、ちゃんぽんを入れ、食べた。

ホテルに戻る前に、天神近辺の屋台を見学した。高知のように裏道に密集しているのではなく、メインストリートの片隅にあることが意外だった。

高知の方が密集していた分、ワイワイした感じは強かった。今はどうなっているかわからないが。

ホテルに戻り、シャワーを浴び、飲み直すことなく10時過ぎ就寝。