何気なく車を借り、さりげなく海へ行く。
三浦半島の油壺近くに、荒井浜という海岸がある。小ぢんまりとした海水浴場なのだ。
海岸の長さが200メートルくらいしかないので、大勢の観光客は来ないのだ。
朝の8時から夕方の4時まで、泳いだり潜ったり、流れたり流されたりと、ひたすら海を満喫する。
セクシーパンサーみたいな水着を着た、全身隈なく日焼けした年の頃27歳くらいと思われる母親が、子供の世話をしていて、思わず笑ってしまった。
帰りは海パン一丁にバスタオルを羽織った格好で車を運転した。
三浦海岸の辺りを走る分には良かったのだが、磯子を過ぎ、横浜市中心部が近づくにつれて、往来の人の目が気になってしまった。
たぶん、ギリシャの哲学者風のトーガを身にまとった男が、キャスターマイルドを吸いながら、車を運転しているように見えたことだろう。
そんなわけだから、必要以上に安全運転を心がけた。
こんな格好で救出されたくないものだ。
海はいいが、あれほど晴れていた7月に比べて、8月はちょっと物足りない。
そりゃ、涼しいのがいいという人はいるだろうけど、1993年の冷夏を克明に覚えている身としては、社会の精神衛生上、夏は暑い方がいいと思う。
冬が寒いのも、仕方のないこと。
冬は寒いと文句を言い、春は花粉に文句を言い、夏は暑いと文句を言うのが人間だ。
しかし、秋への文句はあまり聞かない。
俺はあるぞ。
秋はみょうに寂しい。
かといって、友人との出会い頭に、「サビシー!」などと言っては、財津一郎になってしまうので、言わないのである。
言わないけど、内心は言ったのと同じなのである。