メールのやりとり

 朝から大雨だった。
 雨音で目がさめるほどだった。
 迷走台風の仕業だ。

 起きる時に感じた眠気はすごいものがあった。
 よく眠れていなかったからなのだろう。
 しかし昨夜寝る直前はあまり眠くなかった。
 起きた時の方が眠いというのは理不尽だ。

 寝つきが悪いわけじゃないので、眠くなくても横になればそのうち眠れる。
 だがそれは強引な、力づくの睡眠なのかもしれない。
 要するに時間になったら眠くなる体質になればいいのだ。
 何があろうとその時間に眠ると決め、一ヶ月もすれば条件反射が形成されるだろう。
 その時間は何時がいいか。
 2時。
 いや、1時半にしておこう。
 今後の目標ができた。

 昨夜なぜかオギノ君からメールがきていた。

どうも、お久しぶりです。
公演が終わってからのドカさんの日記が夏の終わりと相成って非常に面白かったです。
とりあえず仕事の合間にメールを書いているわけですが、サラリーマンというのも気の持ちようで、
芝居の気持ちで取り組めば気分的には同じことなのかなと思います。
なんにしろたいしたことではないですが、制作のほうは見つかりそうですか?
気になりましてね。日記にも書いてあったけど「営業」ですね。
会社を運営していく上でも営業は花形で仕事を持ってくる立場ですしね。
(中略)
「次、行ってみよう」
と連れて行かれたマッサージ屋、カーテンて間仕切りされていて、真っ赤なセロハンを被せただけの
照明、回りの部屋からは小さな笑い声、
ああ、カーテンをめっくって出てくる人が吉永小百合あたりならドラマなんだが渡部君は、
「山崎ハコだね」
と言っていましたがとにかく、場末たっぷりで
ここから先の決定的なところは、とてもメールでは書けませんが(赤裸々すぎて)
現代の歌舞伎町なんて恵まれていて話にならない感じですな
店を出て、非常に悔しくもあり、貴重な体験もあり、だったので、この体験を誰かに伝えたく思いまして。
ドカさんなどを思い出したものですから
「報告せねば!」
と思ったもので。
とにかく、映画や書籍などとは違う、実体験に基づく場末であり、少なくともこの地方は、ここを通過して大人になったりするんです。
書を捨て街に出よう
意味はきっと違うが、そんな気になりました。
非常にくだらない報告となりましたが、きっと、50代や60代の人たちには、あたりまえで興奮する場所かもしれません。
最後に沖縄も社員旅行などで体験しましたが同じような感じだったと思います(澱酔していたのではっきりしません)
ただ、沖縄より、東北の空気がより場末感を出していたのかもしれません。
日本はエロに殺される  エロビデオに慣れてはいけない
最近は、特に思います。

 会津の風俗店体験記を俺に送ってどうしようというのだろう。
 しかも肝心の詳細レポートが書かれていなかった。
 心の準備ができていなかったのだろうか。
 返事を書く。

塚本です。
昔、「あんちゃん」という、お寺の息子が主人公のドラマがあったよ。
坊主になるのが嫌で上京し、女子プロレスラーのコーチをしていたのだけど、親父である住職が死んでしまい、周囲の期待と圧力や、かつて捨てた故郷への葛藤に悩んだ末、跡を継ぐことになるのだ。
主演は水谷豊。
舞台となるのが、過疎化が着々と進んでいる温泉町。
幼馴染が温泉芸者をやってたりするわけだ。
ちなみに妹役は伊藤蘭。
このドラマが縁で二人はくっついたようだ。
場末の町は、町全体が会員制地下クラブみたいなもので、引きこもりのエロスと通ずるものがあるのかもね。
町全体が閉ざされている感じが、誰も見てない感じとシンクロしていったり。
オギノ版「俺の空・会津編」は興味があるので、より具体的なレポートを求めます。
サービス内容、そして、人は一体どのくらいスケベになれるのか、そのあたりを詳細に書いてメールしてください。

 望月からもメールが来ていた。
 彼は今年4月の公演をもってマグネシウムリボンを退団しているのだ。
 地元の静岡で私立小学校の教員を目指すためだった。
 4月の時点ではまだ採用試験も面接も受けておらず、
 「来年の今ごろは教師ですよ」
 と言っていたのだが、8月に面接を受けたところ即採用となり、9月から教師をやっているのだ。
 おかげで東京のアパートを引き払うめどもついていないらしい。
 おそらく4月の時点では、自分の将来についてどうなるのか不安なところもあったのだろう。
 自身の去就に就いては、
 「なんとなーく、フェイドアウトした感じにしといてください」
 と言っていた。

 半年前には同じ舞台に立っていた男が、今は教壇に立っているというのは不思議な気分だ。

 今日きたメールには、実家から学校に通っていることと、実家の住所が書いてあった。