クレイジーケンバンド「ソウルパンチ」

 昨日の夜は涼しくて心地よかった。
 明けて今日も空気は乾き、晴れているのに気温は30度を下回り、ずいぶんと過ごしやすかった。
 久保田君は元気だろうか。

 週刊プロレスと週刊ゴングを立ち読みする。
 先週は締め切りの関係で紙面を割けなかった橋本真也の追悼記事でどちらも埋まっていた。
 橋本の葬儀で棺を担げなかった大谷が、ZERO-ONE MAX の会場で橋本の遺影を持ち、テンカウントゴングを聞きながら涙を浮かべている写真が載っていた。
 これにはグッときた。
 昨年ゼロワン崩壊で橋本と袂を分かった時、大谷は多くを語らなかった。
 当時、色々な雑誌で大谷の発言に注意していたが、橋本のことは一度も誹謗しなかったと思う。
 「僕は橋本真也が大好きでした」
 と、過去形で語ることはあったが、失望の逆説的表現というよりは、エールの裏返しにも感じられたものだ。
 その橋本の志を知っていた大谷だけに、無念の大きさは察するに余りあるのだろう。
 写真の大谷は口を引き結び、頬を膨らませ、涙がこぼれるのも構わずに目を見開いて、悲しみに耐えていた。

 武藤は言った。
 「橋本が死んじゃったよ!」
 蝶野は、サングラスをかけたまま、ひたすら悲しみに耐えてじっとしていた。
 大谷は、目を見開いて、涙をぼろぼろこぼして泣いていた。
 この三人の悲しみ方には、ただもう心を打たれる。
 不覚にも、立ち読みしているコンビニで涙をぼろぼろこぼしてしまい、あわてて外に出た。

 ノアのドーム大会は、橋本を偲ぶテンカウントゴングをしなかった。
 これは、はっきり言って、大正解だと思う。
 文句のつけようがない対応だ。
 あの大会を橋本追悼の色に染めたら、橋本が愛していたプロレス界への冒涜になる。
 第一、武藤や蝶野が追悼興行のために歩み寄ろうとしているのに、6万人の客を前にテンカウントゴングをするのは、僭越以外のなにものでもない。
 三沢社長は確かにノア旗揚げ時、橋本のゼロワンと接触があった。
 だが、結びつきという意味では蝶野や武藤の足下にも及ばないのだ。
 いい試合、いい興行を打つことが結果的に橋本へのなによりの供養になる。
 橋本の死で立ちこめたプロレス界の暗雲を、これ以上ないというくらい完璧に吹き飛ばしたのだから、お見事としかいいようがない。
 それに、ノアはどのプロレス団体よりも早く、橋本への哀悼を表したテンカウントゴングを、地方会場でやっているのだ。

 『哲学者の密室』第2部に移る。
 時代が第2次世界大戦中に移った。
 事件に関わる面々の過去。すなわち、ユダヤ人絶滅施設での出来事というわけだ。
 生と死の哲学的な会話が、ここで生きてくるのだろうが、正直まだ手応えがつかめない。

 夜、ニラの卵炒めを作って食べる。
 卵に下味をつけ、炒める時に合わせ味をつける。
 一瞬に作れるメニューなので結構好きだ。

 キャンディーズの色々なベスト版から、ミキちゃんのボーカル曲を集めて聴く。
 やはりミキちゃんが一番歌がうまい。
 小さい頃からコールユーブンゲンをイタリア語で歌っていたという。
 父親が声楽家で大分芸大教授、母親がピアノ教師という環境ならではだ。
 『銀河空港』という曲は、そんな正統派のミキちゃんが、歌謡曲的なこぶしを苦労して作って歌う曲で、ぎこちなさがなんとも素敵だ。
 『ふたりのラブソング』『オレンジの海』『あなたのイエスタデイ』など、シングルB面曲もいい。
 これらは当時買ってもらったレコードを持っている。
 (ああ、これってミキちゃんが歌ってたんだ)
 という発見がある。
 『ふたりのラブソング』は、今聞いてもいい。

 キャンディーズの解散は1978年4月4日だ。
 どのくらい昔なのか?
 距離感をつかむためには、比較対象となる色々な出来事を並べるといい。
 箇条書きにしてみよう。

 ・松田優作『探偵物語』の1年前
 ・ジョンレノンの死ぬ2年前
 ・クイーン『ボヘミアンラプソディ』の2年ちょっと後
 ・漫才ブームの2年前
 ・『3年B組金八先生』の1年前
 ・NECのパソコンPC8001登場の1年前
 ・ファミコン登場の5年前
 ・オイルショックの4年後
 ・猪木vアリ戦の2年後
 ・『ドラえもん』アニメ放送開始の1年前
 ・秋本治『こち亀』連載3年目
 ・鴨川つばめ『マカロニほうれん荘』少年チャンピオン好評連載中!
 ・成田空港開港直前
 ・栗本薫『グインサーガ』執筆開始1年前
 ・とんねるずは二人とも帝京高校2年在学中。
 ・ダウンタウンは二人とも中3
 ・森繁久彌65歳。
 ・市川雷蔵が死んで9年
 ・三島由紀夫が死んで8年
 ・ビートルズが解散して8年
 ・イチローこの年5歳、松井この年4歳、王貞治この年ホームラン800号達成

 クレイジーケンバンドのニューアルバム『ソウルパンチ』を聴いた。
 前作に劣らずいいアルバムだった。
 『魂拳』『京浜狂走曲』『Sweet Seoul Tripper』の3曲が前半に集中している。
 『魂拳』はアジア人にしか書けないアジア人のファンクナンバー。
 黒いのに、中華でインドで横浜な音。
 クレイジーケンバンドの面目躍如。
 『京浜狂走曲』は曲作りの思想としては『タイガー&ドラゴン』と同系列。
 ファンキー極まりない格好いい音と、横浜ローカル丸出しの歌詞の組み合わせにうっとりする。
 『Sweet Seoul Tripper』は、黒い。
 黒いのにハングルがさりげなく入って、アジアンな感じが醸し出される。
 もう、負けっぱなし。
 最後の2曲『流星ドライブ』『California Roll』に至っては、もう名人芸。
 『流星ドライブ』は、甘くて爽やかな超上質な夏色ポップソング。
 続けざまの『California Roll』はエンディングナンバー。
 「いかがでしたか今宵のクレイジーケンバンド・ショー」
 みたいな雰囲気だ。

 ドラマの影響でクレイジーケンバンドといえば『タイガー&ドラゴン』みたいな曲ばかりやるバンドだと思われるのかもしれないが、アルバムを通して聴いてみると『タイガー&ドラゴン』みたいな曲は『タイガー&ドラゴン完結版』だけだった。
 曲作りや売れるということに対しての距離感は、やはりメンバー皆さん大人なので、若いバンドにはとても出せない間合いがあり、結果的にとんでもない芳醇の一枚があっけなくぺろっとリリースされた感じ。
 これを次のアルバムが出るまで繰り返し聞ける嬉しさったらない。
 ああ、ライブに行きたい。