部屋の向かいにある酒屋は、今では珍しくなった<町の酒屋さん>である。
おばあちゃんが店番をしていて、おとっつあんが軽トラで配送、瓶の片づけを店員のあんちゃんがやっている。
おとっつあんの息子がくりくり坊主で、時々隣の家に住む小学校五年生くらいの女の子に遊んでもらっている。
道は一方通行で車の通りは少ないが、少ないゆえに車は突然現れる。
「私、くるま係!」
元気のいい女の子の声が聞こえた。
お祭りのためか、浮かれ気分の子供らが道で延々と遊んでいる。
子供が外で遊んでいる声を聞いたのは、実はずいぶん久しぶりのことだ。
たぶん、高校生の時以来だ。
実家の外で、夏休みの子供たちが歌いながら遊んでいたのを、昼寝しながら聞いた覚えがある。
その後は、ずっとない。
大学時代は、子供が遊んでいるような時間に実家にいることは滅多になかったし、一人暮らしをはじめてからは近所に子供がいない部屋が続いた。
20代半ば過ぎ、実家で数ヶ月過ごしたりすることもあったが、少子化の影響か、子供が遊ぶ姿をまったく見なくなった。
俺の生活から、道ばたで遊ぶ子供は絶滅していたのだ。
それが、今日、いた。
興奮した。
タガメを発見したみたいな気分だ。
今日も暑い。
昨日より暑いといっていい。
昼、青椒肉絲を作って食べようとしたが、合わせ調味料を仕込むのをすっかり忘れていた。
しかし材料はすでにフライパンの中である。
仕方ないので間に合わせに塩こしょうをし、醤油をふりかけた。
まあ、普通の味だった。
4時過ぎ、西荻窪南口でアイスを食べ、御輿を見る。
地域住民による地域住民のための御輿といった感じだった。
夕方、駒込へ。
パーマ企画の稽古。4日目。
4人の囚人シーンを稽古する。
細井さんのやる看守が囚人をいたぶるシーン。
陰湿さがそのまま出ないよう注意して見る。
渡辺さん演じるカツコがなかなか難しい。
二面性のある役なのだけど、それぞれの面が同じ根っこから出ていないと、ただの分裂になってしまう。
が、根っこがどこにあるのか、まだ探りかねている。
カツコの根っこはどこにあるのか。
キーワードはなにか。
昨日、稽古後にサシで、
「私の役なんですが…」
と相談してきた丹野さん演じる君江は、デフォルメが効いてきた。
一つの役が持つ特質、というか性格を、どれだけ大げさにやってみるかは、稽古初期の大きな楽しみだと思う。
極端な表現は、自分の気づかなかった壁を壊すことがあり、壊れた壁の隙間からまったく違った世界が見えたりする。
君江は、もしも自分がこの芝居にでるとしたら一番やりたいと思った役だ。
女役だけど。
でも、俺が女装してやってもある意味オーケーな存在だと思うのだ。
そこにヒントがある。
細井さんは、高野君の代役をのびのびとやったあたりからリラックスしたのか、好き勝手にやり始めた。
タガがはずれたというべきか。
大いに結構なことではある。
その影響を受け、どちらかというと緻密に考えてくる猪口さんまでもタガを外し始めた。
いっそみんな外してもいいと思う。今なら。
外すうちに、外さなくてもいい部分に気づいていく。
そうしたやり方もあろう。
たとえていうなら、無人島での生活を全裸で始める。
「さすがにこれじゃ恥ずかしい」
「じゃあどこを隠せばいいか?」
試行錯誤の末、ここまで隠せば恥ずかしくないというレベルの切れを身にまとう。
それでもずいぶん、さらけ出しているはずだ。
無人島で全裸とか書いていたら、頭が違う方向に妄想を展開し始めてしまった。
いま俺の頭の中には、60人くらいの厳選水着ギャルが無人島で俺のためにフルーツやトロピカルドリンクを用意している映像が流れている。
もはや芝居のことなど考えられん。
10時半帰宅。
今日は、ノアの武道館大会があったのだ。
パーマ企画の演出を引き受けた際、9月18日は「予定があるので」と稽古を休みにしてもらい、ノア観戦をしようと思っていた。
が、ドーム大会を観戦できたことだし、まあいいかなと。
ここは俺自身の戦いをしなきゃと。
そう判断し、誰にも言わないでおいた。
帰宅してシャワーを浴び、夕飯を食ってからノア中継を見る。
メインのGHCヘビー級選手権試合、力皇-三沢戦。
力皇が三沢越えを果たしたのだけど、土壇場での声援は明らかに三沢へのものが多かった。
ネットにつなぎ、生観戦した人の書き込みを見ると、メインよりセミの試合が盛り上がったらしい。
田上が久しぶりに大爆発し、秋山をフォール。
会場は、大・田上コール。
他にもKENTAとSUWAの試合や、KENTAと柴田の電撃合体など、見所は沢山あったらしい。
今さらながら、行けば良かったと後悔。
次のビッグマッチは11月前半。
本番直前につき、またしても行けない。
悲しい。
この悲しみを乗り越えて、芝居を演出するのだ。