ゴダード『蒼穹の彼方へ』読む。
ゴダード作品の特徴としていえるのは、主人公がダメ男であるということだ。
パターンとしては、謎の鍵を握る女の誘惑にからきし弱い。
大抵、誘惑に負けて官能に溺れ、抜き差しならない立場に追い込まれる。
『蒼穹の彼方へ』の主人公ハリーは、他のゴダード作品のダメ男に比べると、むしろ骨のある男に思える。
好ましく思っていた女性が失踪し、手がかりを執念で追っていくところなど、ハードボイルドさを感じる。
夕方、田端へ。
エチュード稽古をして、緊張シーンを緩和する。
エチュード稽古をするのは久しぶりだ。
パーマ企画の時はエチュードの代わりに、役について話し合う時間をとった。
今回のように自分で書いたものの時は、やはりエチュードの方がやりやすい。
9時40分まで。
田端の稽古場は和室で、割と好きだ。
6年前『暮れなずめ街』をやった時に、バイク便の仕事をしていた。
夕方5時にあがるはずだったのだが、なぜか4時50分とかそういう時間に長い距離の仕事ばかり入り、仕事が終わるのは6時近くか、それを過ぎることが多かった。
稽古は小金井でやっていたので、場合によっては稽古場に着くのが8時近くなる。
これでは稽古にならない。
そんなイライラが募ってきたある日、4時55分に神田のあたりで待機となった。
あと少しであがれると思っていたら、ポケベルが鳴った。
配車センターに電話をすると、恵比寿で荷物を受け取り、田端に配達をしてくれと言われた。
それが田端駅のすぐ近くだった。
時間がかかることがわかったので、その日の稽古は中止にした。
配達を終えてから事務所で、仕事をやめますと言った。
衝動的といえば衝動的だったが、前の月に同僚が大きい事故を起こし入院していたこともあり、これ以上イライラを抱えたまま仕事を続けることへの恐怖感もあったのだった。
仕事をやめたものの、稽古がうまくいくかといえばそうでもなく、9月の稽古で昼の1時から夕方まで自分一人しかいないということが2回ほどあった。
その時はさすがにあほらしくなり、うちに帰って台本の続きを書いた。
精神状態は控えめに言ってあまり良くなく、10時近くに稽古が終わるととりあえずリポビタンDを飲んで深夜の台本書きに備えるという日々が9月いっぱい続いた。
装置もわりと建て込む量が多くて、塗りは仕込み前日の徹夜作業となった。
本番はなんとか無事終えることができたが、
「終わった!」
「飲むぞ!」
という爽快感はなく、どんよりとした気分が残っていた。
自分が頑張らなきゃいけないという気持ちが切羽詰った結果、人を信じられないという極端な思いへと変貌していたのかもしれない。
千秋楽の翌々日の夜、学校へ行き廃材を燃やした。
後輩が手伝ってくれた。
徹夜の塗り作業や、苦労のあれこれを思い出し、それの結晶が目の前で灰になっていくのを見ているうちに、ちょっと頭が変になってしまった。
以来三ヶ月、昼はタバコを吸いまくりながらパチンコをし、夜は酒びたりになってプレステをしていた。
まるで、ゴダード作品に出てくるダメ男みたいだった。
その頃の思いを一言で言えば、
「こんなに頑張ってるのに、なぜ報われない?」
だった。
ピンチになったり、追い込まれたりした時、
「負けてたまるか!」
と思う気持ちは強い方だが、負けてたまるかモードに入ると、個人主義になる傾向がある。
「それ、俺がやる」
「わかった、じゃあ俺がやっとく」
そして、仕事に追われてヘロヘロになった挙句、こう思う。
「こんなに頑張ってるのに、なぜ報われない?」
昔から何度も陥ってきたパターンだ。
ピンチに陥る前の自分と、陥ってからの自分。
これは別人と考えていいだろう。
人の意見をよくきいて、前向きに頑張っていこうとする自分がいる。
しかし、ひとたびピンチに陥ると、
「いい! 俺がやる!」
このパターンに、人生の罠がある。
ピンチの時、どうするか?
どれだけ、仲間の存在を意識できるか?
課題だ。