三島で旅ランニング終了

夢の中で声が聞こえた。
「ご主人、起きてください」
目をこすって起きる。もちろん夢の中での動作として。
そこはリラクゼーションルームではなかった。林か森の中だ。オレは地べたに座っている。
目の前にトマト人間が立っていた。
「なんら見返りのないランニングお疲れ様です」
トマトが言った。
「大きなお世話だ。ていうかトマトが喋った!」
「私はあなたが育てているトマトを代表して来ました。要点だけ言いますね。水がなくなりそうです」
「木曜の夜にたっぷり補充したじゃないか」
「この二日間のカンカン照りご存じでしょう。あなたが麦茶とかスポーツドリンクを飲みたいだけ飲んでるように、ボクらだって喉が渇くわけでしてね。残念ながら、日曜の夜まではもたないでしょう」

3時、リクライニングベッドで目が覚めた。起きている客はいなかった。
スマホを充電しなければと思い、ロッカーへ行き充電器とスマホを出した。スマホは電池残量が5%を切っていたのにまだ動いていた。

ロビーのソファが置いてあるところの壁にコンセントがあり、一つ空いていた。そちらからエナジーを少しいただいた。

充電をしながらランニングの予定を考えた。

最初にこの計画を立てた時は、三島まで走った暁には静岡県がアジアに誇るレストラン『さわやか』で肉汁たっぷりのハンバーグをしこたま食ってやろうと思っていたのだが、木、金、土と走りに走った結果、食欲の根本を成している『劣情』に近いものが自分の中から欠落してしまった。運動しすぎて飯が喉を通らないのとも違う。普通に食えるが、そんなに食わなくてもいいという感じだった。

『劣情』なんてお下品な単語を書いた以上責任を持って続けると、エロ妻と温泉旅行にでも来て、向こうは「ねえン」などと小池一夫ふうのセリフで欲情を露わにしてくれているというのに、そっけなく「疲れてるんだ」などとうるさがる、ガリひょろメガネみたいになってしまった気分だった。

昨日のランニング終盤、暗闇を走っているあたりからそう思っていた。なんかもう、ハンバーグなんか食わなくてもいいかなあ、『さわやか』なんて11時開店なのに整理券配るのは10時だし、それでも待ちになるらしいからなあ。

そういえば夢にトマトが出てきたなあ。水がなくなるとか訴えていたな。うん。やばいかもしれない。2018年の8月、九州に旅行した時、4日家をあけたらトマトが枯れていたものな。

いや、でもあの時は容器の断熱対策をとっていなかったから、溶液の温度が上がりすぎてそれで枯れたんじゃないか? 家に帰った時、まだ水は残っていたぞ。今は容器の周りをぐるっと断熱材で覆っているから、そこまで温度が上がることはないはずだ。

いやいや、今年のトマトは成長がすごいから、水が煮える前に飲み尽くすことだってありうるぞ。現に先週末は、一日にバケツ4杯も補充したじゃないか。

そうだなあ、じゃあ今日は、なるべく早く家に帰るか。

そう思って三島駅の時刻表を調べた。新幹線のこだまが6時15分と6時45分に出ていた。サウナから三島駅までの距離は21キロあった。ちょうどハーフマラソンの距離だった。

普通に走るなら2時間見積もればいい。しかし今は背中にリュックも背負っているし、何しろこの三日間走り通しだ。昨夜は久々にしっかり寝て休息を取ることができたが、たまった疲労と筋肉痛はいかんともしがたい。

とりあえず、どんなに休み休み走っても大丈夫な時間は3時間だろうと思った。時計を見ると3時40分を過ぎていた。6時45分のこだままで3時間ちょっとだ。よし行こう。

ウェアに着替えて、3時50分まで充電を続けた。スマホは20%まで回復したが、ランニングウォッチはあまり充電できずに終わった。

深夜料金を払ってサウナを出た。Googleマップでコースを確認する。三島まではほぼ南に向かって進めば良かった。

走りはじめてすぐ、ミニストップに入り、イートインで朝飯を食べた。天むす、納豆巻き、コーヒー。食べておかないと途中でへたる可能性がある。機械的にもぐもぐした。

高速のガード下をくぐり、御殿場線に沿って道を南に走るあたりで明るくなってきた。右手に富士山が見えた。

御殿場市は標高400メートルくらいの位置にあるため、三島までは緩い下り坂が続くようだった。いったん走り出すと足の調子は良かった。6分前後のペースで淡々と距離を稼いだ。

ちょうど10キロ走ったあたりで、水分休憩を取った。自販機でアクエリアスを買って飲んだ。

そこから先、道はおおむね南に進んでいるのだったが、右斜め前に行くと沼津で、左斜め前に行くと三島という感じに枝分かれしていた。そのあたりで、左に折れなければいけない道を通り過ぎてしまった。これで若干コースが長くなった。

曲がるポイントを間違えないようにするため、そこから先はちょくちょくスマホを調べるようにした。しかし、Googleマップに記されている曲がり角までの距離感が、走っているとなかなかつかめず、そろそろかなと思ってスマホを見ると全然進んでいないということが4回連続で続いたりして、4回目の時は思わず「ふざけんなよ!」と切れてしまった。まだ走らせんのかよ、と。

10キロ走る時までは、ペースが速かったので、これは6時15分始発のこだまに乗れるんじゃないかと思っていたが、後半はスマホを見るため頻繁に止まったためペースががた落ちした。そのうちに6時15分を過ぎ、始発が出たなあと思いつつ地図を見ると、三島まではまだ数キロあった。あと30分以内に着かないと間に合わないと思い、焦ってペースを上げた。
ところが、地図のルートはそこから先が面倒くさくなり、曲がる回数が増えていた。いちいち止まってスマホを出すのは面倒なので、持ったまま走った。それにも関わらず曲がるポイントを間違え、「ふっざけんなよっ!」と強めに切れてしまった。

三島まで残り1キロを切ってからは、さすがに道は間違えようもなくなったので、スマホをポーチにしまい、ラストスパートをかけた。

6時33分、三島駅前に到着した。

駅前のコンビニで900mlのアクエリアスを買い、新幹線の切符を買ってホームに上がった。ベンチに座ってアクエリアスを飲み、息が落ち着いたところでホームに電車が入ってきた。

中に入り席に座り、スマホを充電し、アクエリアスの残りを飲み干して、いやー、しかし、何だな、と思っていたら新横浜に着いた。

下りて、横浜アリーナ帰りと同じルートで、菊名、東横、新都心線、丸の内線で、8時半帰宅。
この三日間の走りは何だったというくらいにあっという間に帰宅。

トマトは無事だった。

赤くなっている実を6個収穫し、水をバケツ1杯補充した。
洗濯をし、シャワーを浴び、ベッドに横になった。

起きると2時半だった。
借りていた本を返しに図書館へ行き、帰りにサミットで、スイカ、なす、パスタソース、冷凍餃子を買った。

帰宅し、洗濯物を取り込み、水耕栽培の水を1杯足した。

夜、日が沈んでから『永福大勝軒』へ行ってみたが、ラストオーダー直前なのに10人以上並んでいた。速攻で諦め、ドラッグストアへ行き、ペヤングの超大盛りとグレープフルーツジュースを買った。

夕食にペヤングの大盛りを食べた。早朝、コンビニでおにぎりを急いで食べて以来の食事だった。

この三日間の旅ランニングを振り返る。

まず、昨年実験した、こまめに休憩を繰り返す走り方は、トータル走行距離を長くする効果はあまりないと思った。その走り方をするのだったら、午前中に20キロ、日没後に20キロと、長めの距離を2回に分けた方がいい。小休止は心肺の休息にはいいが、筋肉疲労をなくすにはいたらず、蓄積してしまうのだ。

これは初日の夜、3回目の40分走を終えた時に思った。よみうりランド前駅にいたのだが、まだトータル走行距離は16キロほどだったと思う。この日は結局、鶴川から坂越ルートを進まされて体力を消耗し、町田を過ぎたところで夜が明けたので終わりにしたのだった。

休息については、宿をとらなかったためにスーパー銭湯を探して休憩する作戦をとった。夜走って昼休むスケジュールにしたため、営業中の銭湯の選択肢が増えたのは良かったが、休息環境については銭湯の設備次第なので、運が悪いと完全野宿になった。

初日明けの座間は、休息室が一応あったものの、床に直に寝っ転がるようなものだったので寝心地は良くなかった。二日目の松田は入場人数に規制があり中でゆっくりできず、結局公園や河原で仮眠をとっただけに終わった。御殿場のサウナはリラクゼーションルームのリクライニングベッドがわりと寝心地がよく、三日間のうちで一番しっかり休息できた。

初日明けの睡眠時間は3時間未満だった。この睡眠不足がたたり、二日目の夜は走っている最中に二回も仮眠をとってしまった。しかし、中途半端に休憩するよりは、しっかり1時間仮眠をとった方が回復することを知った。

水分補給については、自販機やコンビニがあるルートを走ったので心配していなかったが、三日目の夕方、山北から小山までの区間を走った時は、気がついたらものすごく喉が渇いていたので大変焦った。その前に、松田から山北に至る時も喉が渇き、自販機を見つけ次第すぐに麦茶を600mlがぶ飲みしたのだったが、その量では小山までもたなかったことになる。ランニングを延々するための水分補給量は、ペットボトル1本分じゃ十分ではないのかなと思う。それは汗の量でわかる。ペットボトル1本じゃ、ウェアをこんなに濡らせないよなあと思ったものだ。

真夏なので昼間のランニングを避けたのは良かったが、幹線道路ではない道を夜に走ると真っ暗だということを思い知った。三日目夜の小山から足柄を通り御殿場に入るまでがそうだった。足元くらいは見えるのだが、小気味よくランニングはできなかった。
しかし、今回の旅ランで一番ためになったのは、暗闇を走り抜ける経験だったと思う。初めは、不気味だなあとか思ったりしたのだが、走っているうちに余計なことは考えなくなっていった。あれは、普通のランニングではなかなか得られない経験だったと思う。

あと246の歩道について。山間部は雑草が育ちすぎていた。人の背丈くらいの高さに育った植物が歩道全部を塞いでいるのをかき分けて進むのは、さすがにランニングじゃねえなと思った。きさまそれでも246か、と。歯を食いしばれと。軍人?

タイトルとURLをコピーしました