7時起き。朝飯にカレーライス、牡蠣と椎茸の煮物。
8時に実家を出る。WBCの日本対アメリカ戦がまさに始まるところだった。
現場に向かう途中、メトロ車内に、ネット配信で試合を見ている人がいた。さて我輩はどうしたものかと、デーモン小暮閣下の声色でつぶやいた。
仕事をしながらニュースをチラ見するのはイヤだった。そういう見方はするべきじゃない。さりとて、年に一時間くらいしか録画をしないHDDレコーダーに、今日の試合を予約しているわけでもなかった。
とりあえず、午前中はスマホでニュースサイトを見るのはやめた。twitterやInstagramも見ないことにした。
昼、配達弁当を食べる。そのまま奴隷待機所で本を読んでいると、どこぞの女子が、「残念」と言っているのが聞こえた。WBCの試合結果がわかる時間帯だったので、ひょっとすると日本が負けたことに対して、そのジョッスィーは話し相手に「残念」と言ってたのではないか?
こうなると、何が何でも試合を全部見て結果を知りたいと思った。
で、それ以降、人が会話しているのが聞こえると耳をふさぎ、視野にはパソコンのキーボードとモニターのみ入れるようにして、与えられた仕事を淡々とこなしながら午後を過ごした。
夕方、メトロで中野に向かう時も、イヤホンをつけて、昔の『たまむすび』録音を大音量でかけ、外部の音が耳に入ってこないようにした。
ビールを買い、6時45分帰宅。
パソコンのスイッチを入れ、Amazon Prime Videoをブラウザで表示し、検索ボックスに「WBC」と入力した。余計な情報が目に入らないよう、ウィンドウサイズを小さくして手で隠し、日本対アメリカ戦配信のリンクをクリックし、画面を拡大して動画を再生した。
試合が始まったばかりの状態から動画が再生されたので、一時停止ボタンを押した。これを見続ければ、試合を体感しながら結果を知ることができる。
冷蔵庫からビールを持ってきて、プルタブを開けてから、一時停止を解除した。
日本の先発は今永だった。昨年、我がドラゴンズ打線は、彼に手も足も出なかった。すごい球じゃないのになぜか打てない、という感じだった。アメリカにもそのボールは通用するだろうか?
初回、アメリカは2番のトラウトがライトへのヒットを打った。シングルヒットかと思ったら、守備の隙をついて見事な走塁をしてツーベースにした。うわっ、隙がねえ、と思ったが、今永はその後3番4番を抑え、0点に抑えた。
1回の裏、日本の攻撃は、ヌートバーと近藤が打ち取られたが、大谷はフォアボールで塁に出た。大谷の時はピッチャーが明らかに慎重になっているのが分かった。続く吉田は見逃し三振。あれ? ストライク? という感じの見逃しだった。
2回の表、6番のターナーが先制ホームランを打った。技ありという感じの見事なホームランだった。その後もヒットでランナーを出したが、この回はその1点止まり。
2回の裏は村上からだった。昨日のサヨナラヒットが頭をよぎる。また初球から振るかなと思ったら、振ってきた。ただし、そのスイングはボールを見事にとらえ、打った瞬間わかるホームランとなった。
このホームランはタイミングが良かった。先制点を取られた次の回の初球で追いつくのは、流れが日本にあることを感じさせた。
その後、岡本、源田のヒットと、中村のフォアボールで、ワンアウト満塁となり、打席には1番ヌートバーが立った。
ヌートバーは、アメリカにきてから当たりが止まっていたので、どうなるかなと思った。果たして、ボテボテのファーストゴロを打ったが、打球の勢いが殺されたのが幸いし、ランナーは進塁して1点を追加した。
3回4回は戸郷が投げ、5回は高橋宏斗、6回は伊藤大海、7回は大勢が投げた。安定感において、伊藤が素晴らしかった。
打線の方は4回裏に岡本がソロホームランを打ち、スコアを3対1にしていた。
そのあたりのどこかで、ダルビッシュと大谷がブルペンに移動した。大谷はDHなので、打順が近づいてくるたびに小走りでベンチに戻っていた。
日本の投手陣がアメリカ打線を抑え続けるが、日本も岡本のソロ以外追加点はなく、いつ逆転されても不思議ではない緊張感があったまま、試合は8回の表を迎えた。
8回表はダルビッシュが登板した。ブルペンに向かうときの伏し目がちな感じや、韓国戦、イタリア戦の感じから予想はしていたが、調子は決して良くなさそうだった。
外野フライでワンアウトをとった後、5番のシュワーバーはファウルで粘った。イヤな予感がした。粘るうちにタイミングが合ってくるんじゃないか。
予感は的中し、シュワーバーはホームランを打った。3対2。
続くターナーがセンターにヒットを打った後、ダルビッシュの周りに選手やコーチが集まった。まさか交代か? と焦ったが、ダルビッシュは続投し、続く打者をフライに打ち取った。
8回裏、ここは追加点が欲しいところだ、と思ったが、日本の攻撃はあっけなく終わった。この1点を守り切るぞ、という思いの方が強かったのかもしれない。
9回表、マウンドには大谷が上がった。
最初のバッターにフォアボールを出し、やばいぞ、と思ったが、次のバッターをゲッツーに打ち取り、ツーアウトとなった。
打席にはチームメイトのトラウトが立った。
ワンボールから二球目のストレートをトラウトは空振りした。次の球はボール。四球目のストレートをまた空振りした。
五球目の球はバウンドし、ボールとなった。
フルカウントからの六球目、スライダーを、トラウトは空振りした。
日本、優勝。
「よっしゃ!」と叫んだ。11時間前に終わった試合だったが、最初から最後まで、負けたんじゃないか? という恐れを抱きながら見たので、生中継を見ていたのと同じ興奮を味わうことができた。
ネットでニュース関連のサイトと、Youtubeを見た。遅れて、歓喜の相伴に与った。
印象的だったニュースは、試合終了のわずか6時間後に、選手たちがバスで空港に向かったというものだった。ダルビッシュがそのバスに手を振っている写真が載っていた。余韻に浸る暇もなく、仲間たちはそれぞれの道へ進むため、別れ別れになる。しかし涙はない。笑顔がある。
「エモっ!」と叫んだ。
WBCロスに陥る人は間違いなくたくさんいるだろうが、選手たちはもう、次に向かっているわけだ。完璧だ。
彼らに「ありがとう」と感謝する気持ちがあるので、彼らと同じように、オレも切り替えて、次に向かって進むことにしよう。「エモっ!」とか言ってる場合じゃなかった。
12時就寝。