買う女

 雪まじりの雨、雨まじりの雪が、朝から降っていた。
 寒い。
 冷蔵庫のてっぺんに、長年の使用で裂け目が出来、そこから冷気が漏れている。
 裂け目の周りには結露による小さな水溜りができている。
 それが今朝は凍っていた。
 1992年の夏に中古品として買った冷蔵庫だ。
 実際の製造年月日はそのさらに昔。
 たぶん、総稼動年数は20年近いだろう。

 しかし、というか、なぜか、というか。
 こういった家電製品の新品を買うということが、昔からできない。
 そういえば、洗濯機ももらい物だし、オーブントースターもどこかのフリーマーケットで買ったものだ。

 10年程前、アルバイト先の知り合いに借金まみれの女の子がいた。
 その子は300万円の借金を、親に肩代わりしてもらっていた。
 ところがそれから一年も経たないうちに、新しい借金が200万に膨れ上がっていた。

 「何に使うのさ?」
 「コンサートに行くから」
 「しょっちゅうやってるわけじゃないだろ」
 「ファンクラブ限定の沖縄ライブとかあるのよ」
 「沖縄?」
 「だから、飛行機代でしょ、ホテル代、やっぱいい席で観たいからチケット代、せっかく行くんだから2、3日遊んでいくお金でしょ、あとお土産代もかかるし」
 「トータルいくらくらいと考えてるの?」
 「50万」
 「…マジで?」
 「普通かかるよそのくらい」

 その子は一人暮らしに憧れていた。
 「塚本さん、家賃いくらのとこでしたっけ」
 「ウチは安いよ。3万円台」
 「え!」
 「そんなに驚くなよ。風呂ないし、そんなもんさ」
 「よくそんな苦しみに耐えられますね」
 「別に苦しくないぞ」
 「敷金とか礼金とかで、いくらかかりました?」
 「学生課を通して借りたからね、確か敷金だけしかかからなかったよ。一か月分かな」
 「私、東急東横線沿線で探してるんですけど、どこも敷金礼金2ヶ月分かかるんですよ」
 「どういう物件探してんだい」
 「食べるとこと寝るとことリラックスするとこは別々がいいんです」
 「それ、2DKじゃねえか。東横で2DKは高いぞ」
 「渋谷で、すごくいい感じの家具のセットがあったんですよ」
 「待ちなって。いきなりそういうの揃えても、いらないものが絶対出てくるぜ?はじめは少なくていいんだよ、家具なんてものはさ」
 「私、そういうのダメ。生活っていうのは、やっぱり、自分色にプロデュースしたいの」

 彼女は間もなくバイトを辞め、別の会社で社員になったので、その後の顛末はわからない。
 何年か前に結婚したというが、旦那は女房のコンサート通いをどう思っていたのだろう。
 チャゲ&飛鳥のコンサート通いを。

 ヤフオクを色々見て回る。
 冷蔵庫はモノがでかいので、さすがに発送料金がかさむ。
 リサイクルショップで買ったほうがその辺は安くつく。

 デジカメを落札した。
 これも、昨年暮れからずっと狙っていた。
 ペンタックスのOptioS4i
 会える日が待ち遠しい。