朝、洗濯と部屋の掃除をする。
以前から、掃除機のサイズに疑問を覚えていた。
うちは畳とフローリングなので、カーペットと違ってゴミが毛足の間に詰まるということはない。
ほうきとちりとりでも落ちているゴミは掃除できる。
掃除機を使う時は立たねばならない。
それがかえって掃除を難しくさせる。
坐ったまま使えるコンパクトな掃除機で、良い製品はないものだろうか。
電池ではなくAC電源で動くような。
昨日干した洗濯物は、午前中にはまだ生乾きだった。
冬だなあと思う。
午後、中野に出かける。
欲しいと思ったタイプの掃除機があるのは、ドンキホーテじゃないかと思ったのだ。
先に大勝軒へ行き、昼飯につけそばを食べる。
その後、ドンキホーテへ。
中野のドンキホーテは品揃えが悪いという印象があったが、この数年で改善されたようだ。
というより、年月を経て商品の積み方が雑然としていき、よりドンキらしくなったということだろう。
掃除機はなかった。
必要だったジョギングシューズを買う。
痛み防止のため、もう一足欲しいところだが、とりあえず今日は一足。
冬のジョギングで膝を痛めぬよう、サポーターなども買っておかねばならない。
サウナスーツも欲しくなったが、余計な物欲だと思い我慢した。
夕方4時帰宅。
洗濯物を取り込む。
渡辺ノブ君から電話。
先日、音速かたつむり公演を見に行った時、来年2月の東京OXカンパニー公演情報がパンフに印刷されていた。
<演出・渡辺宣明>ではなく<演出・荻野航>とあった。
そのことを謝る電話だった。
荻野君は東京OXカンパニーの主宰で作者でもあるのだから、彼が演出をするのになんの問題もない。
物事が収まるべきところに収まったというわけだ。
問題は現場から離れて4年という荻野君と、今回出演する役者との、現役感覚のギャップか。
そこをノブ君がプロデューサーとして埋めていけるかどうかだろう。
グリーレタスでサラダを作る。
つぶしたゆで卵をまぶす。
トーストにピザソースを塗り、切ったソーセージとチーズを載せて焼く。
サラダのボリュームがあったため、トーストは1枚しか食べられなかった。
チーズがしつこかったせいか。
テレビで、北京オリンピック野球予選の試合を見る。
フィリピンにはコールド勝ちした星野ジャパンだが、今日はすでに2勝をあげている韓国戦だ。
もしここで負けると、韓国の北京出場が確定してしまう。
試合は、1点を争う好ゲームだった。
3対2で日本リードの時、酔っぱらった中山君から電話。
「もしもし、今ボク、誰といると思います?」
「荻野君と飲んでるんだろう」
「はい。当たり。あと他に誰いると思います?」
「宇原君」
「…」
その沈黙は、あっけなく当たったことによるらしかった。
中山君はしつこく続ける。
「…あと、一服の清涼剤として、もう一人いるんですけど」
「清涼剤? 女の子?」
「いえ、男です」
「誰だろう、清涼剤? ノブ君じゃないよね」
「ノブです。当たりです」
全問正解したところで、荻野君と代わる。
「ドカさんにとって、オレと中山と、どっちが信頼に足る人物だと思いますか?」
酒を飲みながらそのことを議論でもしていたような口調だったが、普段そのように二人のことを考えたことはない。
だからその場で考えてみた。
「中山君は頼んでもなかなかやってくれないけど、一回やると言ってくれたら、最後までやってくれる。ただ、なかなかやると言ってくれない。言ったら最後までやらなきゃいけないとわかってるから、そのへんが臆病みたい。荻野君は、頼まれたら断れないタイプで、割になんでもやってくれるから、とても頼みやすいけど、その調子で各方面のジョブを抱えきれなくなると、すべて放り出してバーストしてしまうか、一つ一つを完遂してくれない可能性がある」
「ドカさん、それは、オレとしてはコースケに負けてるようでショックですよ」
「別に負けてないじゃん。タイプが違うっていうわけで。実際これまで荻野君を色々頼りにしたじゃん」
「それならいいですけど」
宇原君が代わった。
「すいません、オレは電話するのやめようって言ったんですけど」
申し訳なさそうに彼は言った。
「いいよ。前に彼らと飲んだ時も、酔った時に色々な人に電話かけまくってるのを見てるから、そういう意味で覚悟は出来ているよ」
宇原君は新しい仕事を始めたらしい。
「結局、コレに戻ってきましたよ」
と、自嘲した様子で彼は言った。
色々な経験をした上で、選べる<コレ>があったのは、宇原君にとって良かったと思う。
荊の道は続くだろうが、頑張って欲しい。
テレビをつけっぱなしにしていたので、画面で試合経過はわかった。
日本が待望の追加点を入れたその裏、韓国も得点して追い上げた。
4対3のスコアで最終回を迎えた日本は、上原が登板した。
鬼気迫るピッチングだった。
音を消していてもわかった。
「日本勝った」
と荻野君に伝え、それをしおに電話を切った。
焼酎のお湯割りを飲みつつ、プロレスリングノア中継を見る。
ノアの試合をテレビで見るのは1年ぶりくらいかもしれない。
昨年『ドッペルゲンガーの森』で、宛名張りの徹夜作業をしている時に見て以来だ。
本日の武道館大会で、腎臓癌のため欠場していた小橋建太が復帰した。
組まれたカードは、三沢・秋山?高山・小橋。
高山とタッグを組ませるあたりが嬉しい。
そして当然、秋山準は対戦相手として試合に臨む。
行きたかったけど、前売りは瞬時に売り切れていた。
矢島アナウンサーの実況は涙声だった。
試合は、秋山に挑発されて小橋が先発。
その体は2年前と比べると若干引き締まっているように見えた。
フットワークが重いのは、実践の勘が取り戻せないためだろうか。
社長は生え際が一段と薄くなった。
秋山もてっぺんがかなり薄くなった。
高山は太って相撲取りのようになった。
秋山はもとより、三沢の攻撃は当然手加減なしであった。
しかし、ハードな攻撃に耐えるごとに、小橋の肉体は1年半前の記憶を取り戻していった。
マシンガンチョップが出た。
三沢の胸が真っ赤になった。
秋山は吼えた。
スープレックスや跳び技が出る度に、会場は大きくどよめいた。
そして信じられないことに、ムーンサルトプレスまで出した。
復帰戦でまさか出すとは思っていなかった。
ファンの歓声に後押しされたのだろう。
小橋が愛されるのはこういうところだ。
そのために小橋は、肉体を傷つけている。
小橋はエメラルドフロウジョンまで跳ね返した。
復帰戦なのに。
そこまでやらなくていいのに。
小橋がそこまでやるからと、三沢は秋山との合体でエメラルドフロウジョンを出した。
さすがの小橋もこれは返せなかった。
三沢組の勝利。
会場に、三沢の曲『スパルタンX』が流れる。
しかし、その曲に合わせて客がコールしたのは、小橋の名だった。
さすがに、今日の放送は泣けた。
ずっと嗚咽していた。
試合後のインタビューを受けている小橋に、高山が近寄り、
「いやー、負けちゃったね」
と言うのを見て、今度は号泣。
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